コボシの日常

「――全部終わらせたかった、ですかぁ」

「ええ、そうなの」

 老婦人は悲し気な表情で首を振った。

「実の息子に否定されて、お友達もすごく悲しんでね。盂蘭うら摩千田まで追いかけようと思っても、もう年だから難しくて。そのまま息子さんは行方知れず」

「それは悲しいですよねぇ。お友達様も、そのお話を聞いた奥様も」

「そうなの。最近多いわよねぇ、人間をやめてしまう子……どうしてかしら」

 頬に手を当て憂う婦人に、隣に座る老父は「ふんっ」と鼻を鳴らす。「根性がないんだ、最近のには」

「お父さんたら。でもコボシさんは大丈夫そうね。説明も丁寧で、あたしとっても安心したわ。この年になると、自分たちが死んだ後のことって不安で」

「恐縮ですぅ。そういうご不安に寄り添うために、ボクたちがいますからぁ。いつでも頼ってくださいねぇ。今日はありがとうございましたぁ」

 テーブルに額がつきそうな深さで、コボシは目の前の老夫婦に頭を下げた。膝の上に置いたバインダーには本日の成果が挟まれており、今の彼女にとって、これより大事なものはない。

 帰り際、老父はこちらを振り返った。

「あんた、女の子で若いのに、よく葬儀の仕事に就いたな。その右目だって、幽鬼ゆうきに狙われるから隠しているんだろうに」

「うふふぅ。生きることには痛みを伴いますから~。諦めずに進み続けた方の最後に水を差されないように、お手伝いしたいんですよ~」

「そうか。あんたきっと、幽鬼にはならんね。また困ったことがあったら頼むよ」

「はい、もちろんです~」

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