綴百合―つづりゆり―

恐縮です

第1話 氷になる人

――人と幽鬼、見た目や能力に差はあっても、そこに貴賤はありません。どんな方にも、その方なりの思いがあり、奇蹟がある。ひとりぼっちで死んでいいひとなんて誰もいない。邪鬼じゃきなんて許しちゃいけないんです。

――お客様という主演俳優を、最後の舞台に送り出す。僕らは照明でありメイクさんであり、演出家であり……ご葬儀というのは、人生の千秋楽ですから。

――お客様に貢献するには、社員も幸せでないといけない。まず目の前の相手に施し、それを繋げていくことで、誰もが大切にされる社会を作れるんです。その社会を実現するために、僕には社員を絶対に幸せにする義務があるんです。ひとりひとりが幸せな人生を歩めるよう、自分の子供のように大切に守りますよ、絶対に。


東御影屋ひがしみかげや創業一七〇年記念動画『めぐる』より。


「あ、お疲れ様です~コボシですぅ。はい、あ、今は摩千田まちだですぅ。生曽きその式場にいますよ~。ええ、仕事終わりですぅ。え、邪鬼対応ですかぁ。同行の先輩は……いないぃ……。あいや行けはしますが~、ボクまだひとりで行ったことなくて~。会社的にオッケーなのかなってぇ。リスクとかぁ……あ、オッケーですかぁ。あ、行きますぅ……はぁい。あの一応聞いておきっ――切れちゃった~……」

 何事もなかったかのように黙る液晶に、せめてもの抵抗としてため息を吐きかける。

 給料より多くもらえるオーナーシップを一〇〇ポイント集めたら、素敵な皿と交換してもらえれば良いのに。とはいえタラレバをいってるだけでは給料すらもらえないので、重くなりつつある下腹部をさすりながら、もう片手で事務室のドアを開けた。

 そこには暗闇の中、社用携帯を握りしめるヒヒルがいた。「ワッ!?」

「こ……」

 硬直したヒヒルの唇が震える。「こ……」

「殺してやるー、あのクソデスク――ッ!」

 およそ葬儀場に響いていい怒声ではない。

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