風船と男の子
レクト
ある晴れた日
男が一人広場で風船を膨らませて子どもに配っておりました。
赤白黄色青緑と色とりどりの風船を膨らませては渡しています。
青空の下で風船を持つ子どもたちがキャラキャラとはしゃいでいます。
そこに男の子が一人やってきました。
「僕にもください!」
元気で明るいその声を聞いた風船の男はこう言いました。
「順番に渡しているんだ、そこの列に並んでね。」
男の子は大きく「はい」と返事をすると列の後ろに並びました。
その様子を見て風船の男はニッコリと笑いました。
男は風船の数を確認するとまた風船を膨らませ始めました。
一人、一人に風船を渡していくと男の子の一人前まで順番が回って来ました。
風船の男がその子に風船を渡すと、小さなお女の子がやってきました。
「風船くれますか?」
幼いその声を聞いた風船の男は男の子に声をかけます。
「この女の子に先に風船を渡してもいいかな?」
男の子はドキリとしました。
チラリと小さな女の子を見てから言いました。
「うん、いいよ。その子に先に風船をあげて」
風船の男は関心したように満足げに言いました。
「ありがとう、君はいい子だ。君の風船は特別なものにしてあげるからね」
そういって小さな女の子用の風船を膨らませました。
桃色の風船を膨らませた男はそれを小さな女の子に渡しました。
「ありがとう!」
小さな女の子は言います。
「お兄ちゃんもありがとう!」
小さな女の子は男の子にも言いました。
男の子は恥ずかしいような誇らしいような気持ちになりました。
「さてじゃあ君の分を膨らますとしよう、風船はこれで最後なんだ」
そういって風船の男は赤色の風船を膨らませ始めます。
「約束通り、この風船は特別なものにしよう」
風船が膨らんで行きます。
男の子は風船をランランとした目で見ます。
大きく、大きく膨らんでいく風船はまるで男の子の気持ちのようです。
男の子は風船を見つめます。
そのときバンっという音とともに風船が弾けました。
「ああ!」
男の男の子が同じことを言いました。
どのくらいか、しばらく二人は黙ってしまいました。
「すまない、特別大きくしてやろうと思ったんだが・・・」
風船の男は申し訳無さそうに誤りました。
男の子は黙って俯いていました。
男の子は泣き出しました。
大粒の涙を流しながら言います。
「ひどいよ!言われた通りに列に並んで、小さな女の子にも先を譲ったのに僕は風船を貰えないなんて!」
風船の男は何も言いません。
「こんなことになるなら特別な扱いなんてしてほしくなかった!みんなと同じでよかった!」
風船の男は何も言いません。
「もう僕は列になんて並ばないし、誰にも先を譲らない!」
そういって男の子は走って行ってしまいました。
風船の男は何も言いません。
男の子が走っていると広場の別の場所で別の男が風船を配っていました。
男の子はまだ風船を貰えるとその男に向かいます。
「僕にもください!」
泣きながら男の子は言いました。
泣いている男の子をみて風船の男は言います。
「どうしたんだい君?」
「さっき別のおじさんのところで風船を貰えなかったんです!」
男の子の強い口調に風船の男は心を痛めます。
「それは大変だったね、おじさんのところは風船がたくさんあるからね。列にならんでおくれ」
風船の男は優しくいいました。
「嫌だ!今すぐほしい!先に僕に渡して!」
男の子は強く強く自分の気持ちを言いました。
風船の男は困りました。
「みんな列に並んでいるんだ。君がさっき風船を貰えなかったのは可哀想だが・・・」
風船の男は言いましたが、男の子は諦める様子がありません。
仕方なく風船の男は列の先頭の男の子に確認すると、仕方ないというしかめっ面で小さく頷きました。
風船の男はフウっとため息をついてから風船を膨らませて男の子に渡しました。
「今回だけ特別だよ。今後はこういうことはやめておきなよ」
そういって風船の男は男の子に青色の風船を渡しました。
男の子は風船を手にしました。
念願の風船です。
青色の風船は空の色よりも濃くて男の子の心のようです。
男の子は思いました。
苦労して手に入れたのにさほど嬉しくありません。
辛い思いをして、無理を通して手に入れたのがたかが風船だったのです。
風船を見つめながら男の子は思います。
こんなもののために僕は何をやっていたんだろうと
トボトボと広場を歩いていると先ほどの小さな女の子に出会いました。
「お兄ちゃんだ!」
小さな女の子がテトテトと寄ってきます。
「さっきはありがとう!」
明るい幼い声で女の子は言いました。
男の子は少し嬉しい気持ちになりました。
「青色の風船だね!」
女の子はそう言って男の子の顔を見ます。
なんだか嬉しそうでない男の子の顔を見て言います。
「青色嫌いなの?私の桃色のをあげる!」
女の子は桃色の風船を男の子に差し出しました。
男の子は断ります。
「私もうお家に帰らないと行けないの、風船はお兄ちゃんにあげる!」
そういって男の子に風船を押し付けて女の子は去っていきました。
女の子からすれば風船は一時の娯楽で執着するようなものではなかったのです。
風船を2つもった男の子はポカンとした顔でいました。
男の子が青色と桃色の風船を見てぼんやりしていると声がかかります。
「おい、なんで風船を2つもっているんだ?」
それは先程の列の先頭にいた男の子でした。
先頭の男の子は凄みます。
「別の風船を持っていたくせに列に割り込んだのか?なんてやつだ!」
男の子は否定します。
「わかるもんか!今2つ持っているだろう!」
そういうと先頭の男の子は青色の風船を掴み取ると
パーン!
風船を割ってしまいました。
「ああ!」
男の子は叫びます。
先頭の男の子はもう一つ桃色の風船を掴もうとします。
男の子は抵抗します。
これは自分が女の子に順番を譲ったという証明で男の子とってはとても価値のあるものなのでした。
先頭の男の子は強引に桃色の風船を掴み取ると
パーン!
風船を割ってしまいました。
「悪いことをした罰だ」
そう言って先頭の男の子は去って行きました。
男の子は何も言いませんでした。
男の子は大人になり広場で風船を配るようになりました。
赤白黄色青緑と色とりどりの風船を膨らませては渡しています。
青空の下で風船を持つ子どもたちがキャラキャラとはしゃいでいます。
そこに男の子が一人やってきました。
「僕にもください!」
元気で明るいその声を聞いた風船の男はこう言いました。
「順番に渡しているんだ、そこの列に並んでね。」
男の子は大きく「はい」と返事をすると列の後ろに並びました。
その様子を見て風船の男はニッコリと笑いました。
風船の男は風船を数を確認するともう一度ニッコリと笑いました。
風船と男の子 レクト @direct0907
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