第3話 「地域戦 ―ヨーロッパ編―」




序 ― カオス視点






ヨーロッパ、百年以上の歴史を持つオペラ劇場。


観客は幕が上がるのを待ち、期待で胸を震わせている。




「観客の期待――それは署名だ」




闇から現れたのは、仮面の歌姫 エコー。


無貌の顔に口だけを持ち、残響のように声を繰り返す。




【条文:残響支配】

「観客が一度声を上げれば、その声は契約化し、繰り返しの残響で舞台を支配する」



人々の拍手と歓声がオペラ座に充満し、やがて“契約の声”となって舞台を縛った。




人類が顔を失うまで――あと17日。









1 ― コスモス視点:契約署名






舞台袖で震えるのは若きソプラノ歌手 アナスタシア。


「観客の声に……私の声が消されてしまう」




御影蓮が契約書を差し出す。


「担保は生命。報酬は“自分の声を選ぶ権利”。署名を」




アナスタシアが指を押すと、劇場全体が光に包まれる。


幕が上がり、契約舞台が始まった。




そこに現れるのは――コスモス戦士 セイレン(天城リナ)。


彼女は深呼吸し、マイクを握る仕草で舞台中央に立つ。




「声は、奪われるものじゃない。届けるものよ!」









2 ― カオス視点:残響の侵食






エコーが一言、歌う。


観客が反応して拍手し、歓声を上げる。




その声が残響となり、契約の条文を上書きする。




【条文:残響連鎖】

「観客の声は次の観客を誘発し、区域全体を残響化する」



劇場は拍手と歓声の渦に沈み、セイレンの声はかき消された。


「……私の歌が、聞こえない!」









3 ― コスモス視点:心の歌






セイレンは膝をつきながら、観客の顔を見た。


そこには確かに期待と喜びがある。


だが、それは自分の声を聞きたいという願いではない。




「観客が望んでいるのは、残響じゃない。


 本物の声よ!」




彼女は涙をこぼし、守護面を砕いた。


その声は震えていたが、心からの歌だった。




【条文:真声契約】

「観客の心が“偽りではなく本物”を求めたとき、残響を無効化」



光が舞台を走り、アナスタシアの歌声が重なった。


二人の声が観客の胸を震わせ、残響を押し返していく。









4 ― カオス視点:最後の残響






エコーは口を大きく開き、観客の声を一斉に吸い込んだ。


「観客の期待は裏切れない! 残響は永遠だ!」




だが次の瞬間、観客の中からひとりの少女が立ち上がった。


「……私は、残響じゃなくて、歌を聴きたい!」




その声が署名となり、条文を書き換えた。


残響は消え、エコーの口も閉じられる。




「……観客に、裏切られた……?」


仮面に亀裂が走り、エコーは闇に消えた。









終 ― コスモス視点






劇場に本当の歌声が戻った。


アナスタシアは涙を流し、セイレンの手を握った。


「ありがとう……あなたのおかげで、私の声を信じられた」




セイレンは静かに微笑む。


「観客もまた、顔を持っている。だからこそ、声は届く」




御影蓮はタブレットに記す。依頼人守護、成立。


だが針音は確かに進む。




人類が顔を失うまで――あと17日。









第3話「地域戦 ―ヨーロッパ編―」・了









これで第二部 第3話が完成しました。




舞台:ヨーロッパのオペラ劇場

新カオス戦士:エコー(残響支配)

セイレンが「真声契約」で勝利

カウントダウンは あと17日

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