第3話 ぬくもりのユクエ
「温かい手だね。ほんとうに。
こんな優しい手のお母さんだったら、
あんたの息子は幸せだね。」
私の手を握り、そう言われるたびに思うことがある。
そしてまた
「あなたが娘だったらよかったのに。」
と言われるたびに、私はその言葉が、
自分の中で溶けていくのを静かに待つ。
優しい、だから手が温かいという方程式は
実際には存在しないけれど、温かい手に包まれているだけで、人はきっと救われる事がある。その手の持ち主が、どんな人間であろうと。
もし私があなたの娘だったとしたら、あなたは多分その手の温もりを、同じに感じはしない。たとえ、凍える様な冷たい手だったとしても、あなたが想うなら、それはきっと何より求める物である様に。
そして私はいつも思う。
たった1枚、扉を隔てた向こうに居るであろう彼の事を。彼は私を優しいと思った事はあるのだろうかと。それを聞く術を失ってしまったのはいつからだろうと。
鍵のかからないその扉の、鍵をかけてしまったのは、本当は私自身だったのだろうかと。
だから私は今日も、ただその人の側に腰をおろし、その手を黙って握り返す。
もう遠い彼方に置いてきてしまった、
彼のあどけない笑顔を想い出しながら…
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