第17話
すると――。
左手のグローブが黒色から緋色へと変化していく。さらにグローブが接している本との隙間から光が漏れ出していた。
『ふむ……それで良かろう。手をどかしてみるがよい』
左手を本から退かすと、本の表紙に白く輝く文字が刻み込まれていた。
その文字は――マレーネが読めるようになる、だった。
『これで
すると、マレーネは文字の刻まれた、首都グランディールに関する本を持ち上げて、クリスの横に座り本を開いて読み始めた。
クリスは不思議そうにマレーネを見つめてしまう。
なぜならテーブルの上にはマレーネが持っている本がまだ置いたままだった。
『何を驚いておる。
何となくモヤモヤとした感じであったが、あまり深く考える気にはならなくなった。
クリスは缶ジュースをゴクゴクと飲み干すと、ソファに深々と腰掛ける。
さてさて――。
「これから……俺はどうすれば良いのやら――」
クリスはため息を吐きながら呟いていた。
『何じゃあ?
本を読みながら、マレーネはそう訊ねてきた。
「どうも、この指輪を嵌めてから記憶が混濁するというか……。何か大切な事柄が、すっぽり抜け落ちたというか――」
クリスは
「なんか……こうモヤモヤするというか……。俺は、どうしてここまで来たんだろう?」
マレーネは、ふむふむと興味なさそうに相槌を打ちながら、本を読んでいる。そして適当なことを口にする。
『モラトリアムじゃの。典型的なモラトリアムじゃ』
「決めつけがすぎる。俺は自分探しのために、フォルトスラーバから上京して来たわけじゃない。それだけは確かだ」
『モラトリアムじゃないとするとじゃ』
マレーネは読んでいた本を、パタンと閉じると身を乗り出して、クリスを睨みつけてくる。
『
「婚約したという実感がしないからな。ブルーという感情ではないんだよな」
『実感がないじゃと? それもけしからんのぉ……。実にけしからん』
「じゃあ、俺はこれからどうしたら良いんだ?」
『
考えもしないことだった――。
クリスは、まじまじとマレーネを見つめる。
すると……マレーネが顔を赤らめて、視線を逸らす。
『な…何じゃ……?
「それも悪くないな――」
『悪くない? 気に食わぬ物言いじゃのぉ。本来であれば、
マレーネが露骨に不機嫌になる。
「そう怒るなよ。で……お前と結婚するとして、婚姻届を提出するのか?」
クリスはマレーネに訊ねてみたが、それよりも大事な事に今更ながら気がついた。
「婚姻届よりも前に――マレーネ、そもそもお前、何処にいるんだ? 天界にいるとか言ってたがあれは冗談だろ?」
マレーネは呆れた顔をしてクリスを見つめる。
『当たり前であろう。
すると、マレーネは腕を組んで、首を傾げる。
『はて……さて——
クリスはそれを聞いて、ため息を吐いた。
「モラトリアムかよ……」
『な……!』
「仕方ないなあ、マレーネ。俺は婚約者として、お前の自分探しの旅に付き合ってやるよ」
クリスはニヤニヤ笑いながら、上から目線で言う。
『
「それこそ心外だな。お前は自分が何処にいるのかすら、分からないんだぜ? 過去の記憶があるかも怪しいな」
『
「じゃあ教えてくれよ」
『
よよよと泣いている振りをする。
「悲劇のヒロイン? 相手が悲劇の間違いだろ。確か……婚約者候補は、名前も知らない行きずりの相手だろ?」
『な? 信じられぬ! 何と言う暴言じゃ。名前は知らなくても、彼らの死に方は憶えとるぞ』
憶えてる部分がズレてるんだよ、と突っ込みたくなったが、少し興味があったので訊ねてみた。
『
『今思い返して見ても卒倒するレベルじゃぞ。血反吐を喉に詰まらせて窒息するくらいならまだマシな方じゃったな』
え? 血反吐を喉に――?
『あとは……急に痙攣し始めたと思ったら、穴という穴から大量の血を吹き出して倒れた者もいたのぉ』
穴という穴から……?
『頭が風船の様に膨らんで、パ~ンと破裂して脳漿まき散らした者もいたのぉ』
頭が……ぱ~ん?
『目玉がスポンと飛んでいった後に、眼底から脳みそがニュルッと押し出されて絶命したりした者もいたのぉ』
マレーネが目玉が飛び出す仕草をする。
『急に顔全体が吹っ飛んで、脳みそがプルンと顔のあった場所にズレ落ちてきたり……。特等席で次々と男たちのスプラッター祭りじゃぞ』皆、ひどい死に様じゃった、と語るマレーネ。
クリスはそれを聞いて青ざめる――。
そして両手で顔を覆う。
「ぐ、グロいし、怖い!」
『
「ちょっと待て――。どうして……俺だけお前と婚約できたんだよ?」
しばし沈黙が続く。
『あ、相性が良いのではないかのぉ……』
マレーネは少しずつクリスから目を逸らしていく。
『
「お前こそ、目を合わさずに白々しい言葉を並べてるじゃないか。これじゃあ、結婚したらどうなるか心配だよ」
『し、仕方なかろう!
クリスはため息を吐いた。
「俺たちは似た者同士なのかもな……」
そう言うと立ち上がり、空き缶をゴミかごに投げ捨てる。
「だったら、探しに行こうぜ。まずは手始めに……マレーネ、お前の記憶から」
『ん? 探すといっても、
「ここは図書館だぜ。データベースにアクセスすれば、お前に関する事が見つかるんじゃないのか? 少なくともマリアージュの関係者だろ? だから
『なるほど、それは良いアイデアじゃ。早速、データベースの端末からアクセスしてみようぞ』
マレーネは足取り軽く、スキップをしながら一階に向かおうとする。
クリスもテーブルに置いてある缶ジュースを左手で持ち上げると、マレーネの後を追うように歩き出した。
突然――。
鋭い殺気が、背後に走った――。
霊園で味わった……あの感覚に近かった。
――不覚だった。
「動くなよ……。クリストファー・テトレー君」
何者かが、クリスの背後から白刃を首元に突きつけていた。
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マリアージュの銃士隊 -Another Side: Nocturne of the Janat- ミナモ @mikihi-ro
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