第15話
少女はクリスに踏み込ませないように、動きを注視している。
油断はない――。
銃士姿の少女は右手の指を動かしながら、抜くタイミングを伺っていた。
クリスも身構えながら集中する。
少女のクセは何となくわかった……。
銃を抜くときに僅かに右足に重心が動く……。
おそらく……本人は気づいていない――と、思いたい。
少女が俺にそう思わせる
少女が重心を右へとシフトさせて行く。
少女が銃を抜いた――。
腰の位置から、左手で撃鉄を叩く――。
ファニングによる早撃ち!
しかし、銃口の向きからクリスは動きを止めていた。
当たらないと、クリスは確信する。
銃弾はクリスを掠めるように……後方に―――。
『
ウソだろ……。
『右後方165度から背中じゃ!』
確かに右後方から、
クリスは右脚で地面を蹴って後方に跳ぶ―――。
そして身体を捻って反転させつつ、左手で飛んでくる弾丸を掴みながら倒れ込む。
『クリス! 大丈夫か?!』
マレーネが心配そうに覗き込んでいる。
「ああ、何とかな……」
クリスは直ぐさま起き上がると、握りしめていた左拳を開ける。
「これも違った――」
銃弾がコロッと地面に落ちていく。
『
マレーネは驚嘆の声を上げる。
対照的に、銃士姿の少女は動揺を隠せないでいた。
クリスはそれを見逃さなかった。
少女に向かって駆け出した――。
クリスが向かっていることに気がついた少女は、リボルバーを構えて再びファニングを試みようとする。
けれども動揺しているのか、銃口が安定していていない。
銃口が小刻みに動いているのが見てとれた。
当たらない――。
そう判断したクリスはここぞとばかりに飛びかかった。
一発……二発……と轟く銃声―――。
銃弾は、ことごとく掠めるようにして後方へと飛んで行く。
最後の一発を打ち切る前に、クリスは少女の右腕を掴み上げた。
銃口を天に向けさせることに、クリスは成功する。
「くっ! なんだよ……その力――」
少女はリグを着込んでいたが、クリスの力に圧倒されていた。
「そのリグ……壊れているんじゃないのか?」
「壊れている方が、本来の力が出るって言っただろ!」
リボルバーを持つ右腕を掴まれ、少女は左手で、上衣のポケットから
クリスの方もそれを使わせてなるものかと、少女の左腕を右腕で押さえ込む。
少女はなりふり構わない様子で、頭突きや膝蹴りを仕掛けてくる。
取っ組み合いの状態が続く。
こう着状態に嫌気がさしたのか、少女は左手に握っていた懐中時計の蓋を開いた。
「そんなに近づいて良いのか?」
「至宝は使わないんだろ?」
「ああ……使わないさ」と言って、少女は左手のスナップだけで
「欲しけりゃ、くれてやるよ」
クリスはそれを見て、少女から両手を離して駆け出す。
放物線を描く懐中時計に向かって、クリスはダイブする。
グローブを嵌めている左手で、
「やはり、お前の狙いはソレか?」
クリスが起き上がると、銃士姿の少女はリボルバーを構えていた。
シリンダー内に残された弾丸は一発のみ――。
少女とクリスとの距離は5メートルもなかった。
クリスは手にした懐中時計を、握りしめる。
「残念だったな。そいつを手にしたところで、お前には使えないぜ」
クリスは黙ったまま銃士姿の少女を見つめる。
「至宝には登記が必要だからな。お前に使用する許可は与えられていない」
「知っているよ」
クリスはポツリと呟いた。
「ほう――知った上でわざわざ
「強がりに見えるのか?」
「だったら、望み通り、天命をまっとうさせてやるよ!」
銃士姿の少女はニヤリと笑みを浮かべる。
パチン――。
少女は指を鳴らした。
「その
「そいつは助かる……」
「あ? お前……この状況を理解しているのか?」
銃士姿の少女は苛立った声を上げる。
「ああ、理解しているぜ! メルローズのご令嬢!」
クリスはニヤリと笑い、相手を挑発する。さらに――。
「アンタはこの国の取得時効が何年か知っているか?」と訊ね返した。
銃士姿の少女は怪訝そうな表情をする。
「取得……時効―――だと?」
「二十年だ――。かなり長いだろ。二十年も掛かるんだからな」
「お前……何を言っているんだ?」
「簡単に言うとだな……。所有の意思を持って――」
「何ワケわかんないこと勝手にくっちゃべってんだ!」
少女は声を荒げて叫ぶ!
「ここはマリアージュ家の領地内だ! 革命で憲法ができようが! 法律が変わろうが! 領地内で、それが及ぶことなんてねぇんだよ!」
「ああ、確かにな――。領地内においては、憲法よりも
「知るかよ! 知った事じゃねぇんだ! こっちは法律談義に興味はねぇからなぁ。興味があるのは、テメェの死に方だけだ!」
銃士姿の少女はクリスの話を遮って捲し立てた。
だが、クリスもまた少女を無視して説明を続けた。
「
「占有……?」
少女は眉根を寄せる。
「だから……平然と公然に二十年間、占有を続けた者は時効により――」
時効により……?
クリスの口元が綻んだ。
「所有権を――原始取得できるんだ」
……え?
原始……取得……?
――コイツ……何を言ってるんだ?
銃士姿の少女は、思考が追いつかなかった。
しかし……何か……何かマズイ——。
不安が込み上げてくる。
「まだ気がついていないようだな?」
クリスの言葉で、我に返る。
「アンタが今必死になって時間を進ませているのは、俺ではないんだよ」
俺ではない……何を言っているんだ?
こいつは
少女は鼓動が高鳴るのを感じた。
「おい、お前……どうしてそのままなんだ?」
違和感の正体が、今はっきりした。
時間の経過により、本来であれば身体は老衰していくハズだった。
しかし、目の前の少年は容姿にまったく変化が生じていなかった。
だとしたら、自分は
すると少女の疑問を見透かしたように、クリスが口を開く。
「アンタが時間を進ませているのは、俺が左手に嵌めているこのグローブだぜ」
「グローブ……? いや……身につけている者にも影響が――。まさか……それが至宝……なのか?」その至宝の……能力なのか?
クリスは首肯いてみせた。
「アンタには感謝しても仕切れないぜ。おかげで俺は至宝を二十年間、占有していたことになったからな!」
クリスの傍に、マレーネが現れる。
『
少女は、自分の醜態に顔を赤くした。
「ふ、ふざけるなぁ!」
銃士姿の少女は、リボルバーの照準をクリスに定めると引き金を絞った。
銃口から火花が上がる!
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