Ep.04 至宝と婚約者
第14話
「そのプライドをへし折ってやれば、活路は開けるんじゃないか?」
クリスはニヤリと笑みを浮かべた。
「おい! 早くしろ! こっちから行ってもいいんだぜ」
ガラの悪い物言いと、少女とは思えない怒声に、クリスは肩をすくめる。
「じゃあ……行ってくる」と、マレーネに言い残して庭園の方へと歩き出した。
それもそのはずだった。
彼女はクリスが怯えた表情をして命乞いをするものだと思っていたようだ。
それが堂々とした態度で、しかも余裕のある笑みを浮かべていることが不快だった。
「悪いな。
クリスは冗談のような本当の事を話すが、銃士姿の少女は笑わなかった。
「気にするな。死を前にすれば誰もが臆病になる。幻覚を見ることもあるのだろう」
確かに……幻覚ではあるな。
クリスは言い得て妙だと感心する。
「ようやく死ぬ覚悟ができたのだろう?」
「死ぬ覚悟なんて誰がするか!」
クリスは鼻で笑うと、銃士姿の少女に向かって言い放つ。
「だったら、どうするんだ?」
今度は銃士姿の少女が鼻で笑う。
「命乞いでもしてみるか?」
「そいつは無駄だろ?」と言って、クリスは肩を竦める。さらに続けて、「アンタは俺を殺すつもりでいる。だから、この場所に追い込んだ。そうだろ?」
「ちっ! やはり……気づいていたか」
少女は舌打ちをした。
クリスは説明を始める。
「革命によって新政府が誕生した。政府は財源の確保のために、貴族たちに最大で七割の領地の返還を要求した」
銃士の少女は黙って、クリスの話に耳を傾けていた。
「この時、
マリアージュの領地のうち、霊園墓地一帯はこの
「だから――アンタは
銃士姿の少女は、クリスに向かって拍手を送る。
「なるほど――ただの墓荒らしではないようだな」
「墓荒らしだと? 勝手に罪状を作り上げるなよ!」
「バカが! 何を騒ごうが、お前はマリアージュの領地に足を踏み込んでいるんだ。言い逃れはできないぜ。これからマリアージュの領律によって、お前は裁かれるんだからな!」
銃士姿の少女は、左の腰のホルスターから、
クリスは身構える。
そして――少女との距離を測るように間合いをあけていく。
二人の距離はおよそ20メートル――。
「逃げないのか?」
「必要ない……。避ければいいだけだ」
クリスは考える――。
マスケット銃のショートバレルの速度はおよそ200~250m/s。
20メートルの距離であれば、到達までにおよそ0.1秒。
狙う箇所さえ分かってしまえば、集中力と瞬発力でどうにか避けることはできる。
「避けるだと? 舐めやがって……」
少女は片手でショートバレルを構えると、引き金を引き絞る。
銃口から白煙が立ち上り、庭園内に銃声が轟く――。
ズダン!
射撃に自信がある彼女が狙うのは、眉間だとクリスは確信していた。
だから、0.1秒の僅かな時間でも避けることは容易い。
クリスは僅かに頭の位置を動かした。
風切り音と共に銃弾は、クリスの左頬を掠めるようにして飛び去っていく。
『
マレーネが斜め後ろに立っていた。そして、驚嘆の声を上げる。
対照的に、目の前の銃士姿の少女は、言葉を失っていた。
「なあ、アンタ――至宝を使わなくて良いのか?」
クリスは不敵に笑い、挑発する。
「なぜ……それを知ってる?」
「アンタの名前だって知っているぜ。リディ・メルローズ――メルローズ家のご令嬢だろ? 至宝は「ボレロ」……。時を支配できるそうだな」
「お前、何者だ? 何が狙いだ?」
少女は警戒するかのように身構えた。
「だが、お前程度の小物相手に至宝など使うかよ」
「聞き間違いか? 使えない――の間違いじゃないのか?」
少女の右の瞼がピクピクと動いた。
「アンタはまだ至宝ボレロを完全に使いこなせない。だから使わない」
「ずいぶん舐められたもんだなぁ」
少女は上着のポケットから懐中時計を取り出した。
「なら使ってやるよ。希望の死に方でもあるのか?」
ここからだ――。
クリスは表情に出さないように、気をつける。
「あいにくと、死ぬ予定はないな。死ぬとしたら天命を全うしたした時だ」
「天命だと?」少女は鼻で笑った。「言ってくれるじゃないか。だったらその望みを叶えてやるよ」
リボルバー式の拳銃を中折れにして、シリンダーから全弾6発取り出すと、そのうちの3発を懐中時計の蓋の上に乗せた。
アイツ……何をしているんだ?
クリスは何か嫌な予感が走る。
少女が歪んだ笑みを見せる。
「だが必ずしも、お前の望む死に方ができるワケではないぜ。2分の1だ――」
――2分の1だと?
クリスは冷や汗が出てくるのがわかる。
「6発中3発のみ、時間の速度を早めてやる」
銃士姿の少女は、シリンダーに銃弾を詰め戻すと、シリンダーを回して右の腰のホルスターにしまった。
「これで即死するのも天命だし、掠って寿命で死ぬのも天命だ」
『
「弾丸の見分けはつくか?」と、クリスは小声でマレーネに質問する。
『いや……さすがに
そうだよな……。
だったら……全弾――受け止める覚悟が必要だな。
少女は西部劇のガンマンのように、クリスの動きを探る。
早撃ちのスタイルに変更か……。
命中精度よりも、俺にタイミングを掴ませないようにするわけか――。
クリスも身構える。
静寂の中、クリスは銃士姿の少女の右手に集中する。
銃士姿の少女は右手で銃を抜く。
――早い!
腰の位置ですでに銃口は、クリスを捉えていた。
少女は引き金を絞った状態から、左手で撃鉄を叩いていた。
少女の早撃ち――。
銃声が二つ重なって轟いた……。
ファニング――かよ……。
クリスは動けなかった――。
身体を丸めて、ガードするのが精一杯だった。
「やっぱり連射は精度が落ちるな……」
拳銃をホルスターに収めながら、少女はそう呟いた。
「それにしても、お前――何者だ? リグまで着込んでいるじゃないか……」
2発の銃弾はクリスの左腕と右脚に命中していた。
薄緑色のスウェットに焦げた穴が開いている。
その箇所に埋まっている銃弾に、クリスは触れてみたが、効果はわからなかった。
しかし、残念そうに彼女は首を横に振った。
『
「ああ……まだなんとか行けそうだ」
『そうではない。リグが故障しておるのではないのか?』
「問題ない」とクリスは呟く。そして両手足が動くことを確認する。「俺が着ているリグは拘束衣みたいなものだ。壊れてくれた方が本来の力が出せる」
「ほう。言ってくれるね」
マレーネに言ったつもりだったが、銃士姿の少女が聞いていたようだった。
「それなら次は、
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