第13話
「知っているのか?」
『情報としてだけじゃがのぉ。名前は……リディ――リディ・メルローズ。メルローズ家は代々グランディール王家に仕える貴族でのぉ。近衛省管轄の銃士隊に所属しておる。十年前のグランディール王邸宮の失踪事件で父親が消息不明になっておるみたいじゃのぉ』
「で――どうしてそんな貴族の令嬢が、此処にいるんだ?」
『国王がいなくなったからのぉ。近衛省では不要の部署になったのではないかのぉ』
親の跡を継いだは良いが、左遷されて墓守になったわけだ。
「じゃあ……見た目は銃士っぽいが、それほど強くはないのか?」
『どうじゃろうな。
王国時代のナイトリグと言うことは、防御力に定評のあるアイアンヴァンガード社のモデル・アイギスか――。
おそらく個人用にカスタマイズされているだろうな。
「厄介だな。アイギスを着込んでいたら、素手の攻撃は意味ないからな」
クリスは舌打ちをしてしまう。
『リグだけではないようじゃぞ』
マレーネの表情が険しくなる。
『
「至宝?」
耳慣れない言葉に、クリスは訊き返す。
『グランディールの三銃士たちには、皇女神マリアージュ家から特別な至宝が承継相続されることになっておる。
と……時――時間制御?
「ちょ……ちょっと待ってくれ!」
クリスは声を荒げてしまった。
すると、銃士姿の少女が殺気を帯びた眼差しで、こちらを睨み付けていた。
(まずい! 視線がぶつかった――)
「おい! 腰抜け! そんな所に隠れてないで、さっさと出てこいよ!」
銃士姿の少女の煽りに、マレーネがカチンと来たようであった。
『あの小娘!
「それが出来ないから、ここに逃げ込んでいるんだよ」
『そこは頑張れ、ヘタレ!』
「ひどい言われようだな。だけど、素手でどう戦えというんだ?」
『気づいておらぬのか?
「マレーネ……基本的な質問で悪いが、さっきから至宝……至宝と言っているが――それはいったい、なんだ?」
『
クリスはコクリと首肯いた。
クリスは今まで至宝と呼ばれる存在を知らなかった。
やれやれとばかりにマレーネが説明をしてくれる。
マレーネの簡単な説明によると、特殊な能力を付与した調度品や装飾品の事を指しているそうだ。
その中で、皇女神マリアージュが王侯貴族たちに下賜して与えた物を、畏敬の念を込めて「至宝」と呼んでいることを教えてくれた。
「なるほど……。すると、あのリディという少女は、その特殊能力を有する至宝と呼ばれる物を持っているということか?」
『まあ、簡単に言えばそういうことじゃ。しかも、
『時を支配することのできる懐中時計じゃ』
(おいおい……時を支配する――って、それは無敵じゃないか……?)
「じゃあ、俺もその至宝を手にしているといったが、もしかしてこの片手のみの指なしグローブのことか?」
クリスは先ほど石柱から出てきたグローブを、マレーネに見せる。
『そう、それじゃ。その至宝の名は「ウェディングインペリアル」と言う。クリスよ。そのグローブを左手に嵌めてみるが良い』
クリスはマレーネに言われた通りに、左手に装着してみた。
素材については分からないが、妙にフィット感のあるグローブだった。
変わっていると思ったのは、この指なしのグローブの薬指の部分にのみ金属製のリングが付いていた。
装着してみると左手に嵌めた指輪とグローブのリングが互いにカチリという音と共にピタリと吸い付いた。
『ちょいと待っておれ。今、登記の手続きをして――』マレーネは言いかけて、首を傾げる。『おかしいのぉ。所有権の移転登記ができぬ』
「登記ができないと使えないのか?」
『そう言うことになるのぉ。本来であれば、
「と言うことは、完全にお手上げ状態か……」
命運尽きたなとばかり、クリスは両手を上げる仕草をする。
『すまぬのぉ……登記さえできれば、
土下座で許してもらえるとは思えないけどな――。
そうなると……勝ち目はなさそうだな。
ふぅ……。クリスはため息を吐く。
『クリスよ。そう深刻に考えるな』
婚約者がクリスを覗き込みながら、笑みを浮かべた。彼女なりの優しさなのだろう。
『
クリスには妙案が浮かばなかったので、マレーネの話を聞いてみることにした。
マレーネはある仮説を口にした。
時間を支配する――。
言葉のとおり時間の制御を意味し、時間を停止させたり、進めたり、戻したり出来る能力であるが、当然それを自由に扱うには卓越した制御が必要になる。
そのためには安定した精神力や集中力が必要になる。
そうでないと暴走する危険性があるそうだ。
「つまり、使えたとしても限定的な範囲の制御しかできない……と?」
『あくまで
ふむ……。とクリスは少し考えこむ。
そうなると……戦闘中に触れられたりしなければ、至宝そのものは脅威にはならないと言うことか……。
しかし、それは相手も分かっているんじゃないのか?
クリスは左手に装着した指なしのグローブを見つめる。
マレーネは、俺がこの至宝を占有していると言っていたな……。
待てよ……。
まだ登記できる方法が、残されているんじゃないのか?
クリスは顔を上げてマレーネを見つめる。
『
クリスはマレーネに、ある疑問を投げかけた。
するとマレーネは、面白いとばかりに笑みを浮かべ興味津々のご様子だ。
『可能性の話ではあるが、できなくはない―――じゃがどうする?』
「どうするとは?」
『惚けるな。あの小娘を出し抜くだけの技量が
クリスはニヤリと笑みを浮かべる。
「バカにするな。お前の婚約者だぞ」
『ほぉ……言ってくれるのぉ』
「あの銃士姿の少女は、銃の扱いに絶対的な自信を持っている。だから逃げ場のないこの庭園に俺を追い込んだんだ。だったら――そのプライドをへし折ってやれば、活路は開けるんじゃないか?」
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