ファーストコンバット

 「敵を視認。4人が接近している模様。」

 この先に、警察でも軍隊にも見えない"民兵"。

 確かな殺意が籠った彼らの眼光が、我々に対して向けられている。我々の首を切ろうという使命に狂っていたように見えた。

 軽要塞を気取っている大使館は、果たしていつまで持ちこたえられる?こんな建物、総攻撃を受ければ___いや、考えるのはやめだ。指揮官が迷うことは、俺が守るべき部下たちの死を招いてしまう。

 「一発も無駄打ちするな。無駄撃ちしたら、その分仲間の寿命が減ったと思え。」

 援軍が来るまで今ある物資で耐えなければならない。

 しかし、こんな数少ない物資で耐えれる日数なんてたかが知れていた。それどころか、厳しい環境に晒され続ければ、直ぐに弾薬と命は尽きる。

 援軍が速く派遣されてさえいれば、大量に消費しても許されるのだろうが。

 「ライフルマン、おおよそ300m先。」

 「射撃開始。一発一発大事にして抑制しろ。」

 乾いた重い音とリコイル反動を伴って空薬莢が薬室からはじけ飛ぶ。張り詰めた空気が火薬によってゆがめられ、熱気を帯びた空気が、この軽要塞の内部に初めて生み出された。

 たちまち、彼らの分隊も移動射撃をしながら遮蔽物に身を潜めた。こうなった以上、無駄撃ちと受傷を避けるためにも一度射撃を停止するほかないか。

 「撃ち方やめ、身を潜めろ。」

 射撃が終わった後に見たところ、敵一個分隊の姿が見えない。第二班も射撃を停止しているところを見るに、一般車両などの生半可な遮蔽物には隠れていないと推察される。

 「第二班、こちら突入班。敵のロストポジションはどこだ?どうぞ」

 『こちら第二班。敵は中型の集合住宅らしき住居の、駐車場に現在いると推察される。そのため手前の中型建造物が斜線を遮っている模様。どうぞ。』

 「了解。敵ロストポジションに警戒をしつつ、多方面攻撃についても警戒を実施せよ。以上。」

 もし仮に敵の先遣隊としたら、後方に控えている救国軍の強大な介入戦力が来ることは秒読み。それどころか、奇襲の可能性も依然高い。

 常に四方八方を警戒する必要がある。死なない為、仲間が手傷を負わないためにも。

 再び、屋上のほうから乾いた銃声が聞こえてきた。反射的に体が動き、銃を構えて窓から全景を見渡した。180m先で一人が倒れており、その周辺には2名のライフルマン。おそらくは、浸透するつもりだったのだろう。

 しかし、遮蔽物が少ない上に第二班にはマークスマン選抜狙撃射手が出迎えにやってきているのだ。そう簡単にはこちらまで行けるまい。

 現に、もう一度の発砲音の後、撤退射撃を始めた兵士を尻目に、救出しようと躍起になっていたライフルマンが血を流し卒倒した。

 案の定、突撃要員3名の内2名は狙撃によって行動不能状態に。動的対象に対する戦果としては上々だ。

 『こちら第二班、敵の射撃を受けたが負傷者なし。突入班は受傷あるか?どうぞ』

 相変わらずノイズが交じった音が、タンプラーと同等の大きさをしている無線機から聞こえてきた。

 撤退射撃した敵は、どうやらまたあの建物に逃げ帰ったらしい。今頃、どこかに移動して攻撃の機会をじっくり伺っている事だろう。気味の悪いことだ。

 「こちら突入班、受傷事案なし。全員無事、どうぞ。」

 『こちら第二班了解、こちらは潜在敵の警戒に戻る。以上。』

 とにかく、初仕事は無事に終わり。敵がそれほど練度の高くない民兵だったからか、幸いにも手負いになる者が発生せずに任務を終えることができた。

 しかし、あくまでこれは初めのウェーブに過ぎない。次からは、本格的な火力分隊...いや、中隊規模の部隊が出てくるかもしれない。その時には、全員が生還できるのだろうか...そもそも、任務を成功できるのだろうか?

 ...今は、考えるのをやめておこう。

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