1時間目

 進行方向に銃をしっかり構えながら、急いで駈け下りる。突入班たる6人の兵士は、大使館内部にまで入り込んだ。

 「軍曹、職員事務室はここです。」

 耳を傾けてみると、微かに何名かの話声が聞こえた。どうやら、書類を処分するために躍起になってかき集めているらしい。

 こんな時に挨拶するのも気が引けるが、生憎とそうは言ってられない。急いでドアを___開けようとしたが。

 「あっ...なんだこれ、バリケードか。」

 「用意周到なのはいいですけど、ここに設置するが意味ありましたかね?」

 置くべき場所は1階と2階のはず。予想外な緊急時で判断力が鈍っていたのだろうが、はなから職員事務室に立てこもるつもりだったのなら、それは戦術的優位の獲得とお門違いだ。

 「おい、開けてくれ!俺たちは即応空中連隊第3中隊の第二分隊だ!」

 「助けか!?大使のヘリに乗せてくれるのか!?」

 ドア越しだからか、澄んでいないくぐもった声になって耳に届く。その希望に輝いている声は、些か俺の心に突き刺してくる刃物のような物に変貌していた。

 「残念ながら、コンボイがいつ届くかはわからん。それに、我々の作戦範囲はフレームに限定されているから___」

 「...陸路での退避は、不可能。」

 先ほどの声とは真反対、トーンが低くなっている。無理のないことか。死ぬ確率がぐっと上がったことぐらい、門外漢な彼らでもわかるだろう。

 その彼らを護るのが我々の使命なのだ。文民保護は任務であり軍隊の使命であるので、文句は言えない。

 「しかし、君たちが来てくれてよかったよ。あ、バリケードどかすぞ。おい、書類かき集めるのやめてこっち来てくれ。」

 物体が床をこする不快な音が、ドア越しにも響いて来ることを考えると、警戒心は解かれているようだ。

「...よし、入ってくれ。」

 彼らの側から扉が開かれた。職員はおおよそ20人程度。真っ先に見えたのは、可燃性の箱に入れられる途中の書類たち。救国軍に見られてはマズい機密の宝庫になっていた。

 「うぉ...想定していたよりずっと多いな。」

 「ああ、これを全部燃やすのが俺たちの仕事だ。というか、俺たちができる仕事なんだよ。」

 そう言い切った所。丁度のその刹那、ガラスより衝撃音が走る。ふと見てみると、完全に破壊され切ってはいないが、一部分に銃創のような蜘蛛の巣状の亀裂が入っていた。

 防弾ガラスなのが幸いしたか、破片が飛び散るようなことはなかった。

 「うわっ!なんだよ!」

 「全員伏せ!【タラク】一等兵、場所を特定してくれ!」

 着任1年目の"ルーキー"はライフルと手渡された双眼鏡を手に取り、できるだけ被弾面積を小さく抑えるよう姿勢を低く保った。防弾ガラスと言えども、その性能には限界がある。

 特に、重機関銃HMGのような物に対しての防護力は、ここにおいては無に等しい。

 「方位231!敵歩兵分隊、対戦車兵ATコンタクト!」

 おっと...いきなり対戦車ロケット推進機を持ってくるとは、卑怯だな。

 「...第二班、第二火力班。こちら第一班突入班だ。方位231にAT分隊が向かってきている。至急対応を頼みたい。」

 『了解...方位231に敵AT分隊。マークスマンは脅威となる対象A T兵を優先的に攻撃せよ。』

 冷静にも発出された命令の後、ブツっとノイズが走ると同時に、すぐさま乾いた銃声が耳につんざいてきた。火力班が効力を発揮するうってつけのシチュエーションが真っ先に来たのは幸いなところだな。

 「...全員立ち上がれ、カタピューラ兵長はタクラ一等兵と共に機密文書の処分を、俺たちは部屋を移動して攻撃を加える。」

 「了解、タスク終了次第合流します!」

 「【グラダ】一等兵、【ヴェリプサ】上等兵、場所を移すぞ、ついてこい。」

 「了解!」

 熱意にあふれる返答もまた、時が経てば凍てつき___その体ごと止まるのっだろう。

 ..."一刻も早く、助けが来なければ我々は死ぬ"。

 そんな、至極当たり前な事が頭から離れなかった。

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