続·俺 VS「俺」

 攻撃を直撃させたものの油断はせず、「俺」がいる方向を注視していると、やがて髪と服は焦げながらもきちんと二本の足で立っている「俺」が現れた。

 やっぱり、まだ倒しきれてなかったか。威力は多少強いとは言え一撃で倒せるほどではなかっただろうからな。少なくともあと数発は撃ち込まないと倒せないだろう。その前に魔力が切れないといいが。


 「俺」を正面に何回目かの構えをとる。「俺」は疲弊している様子もないが、剣を構える様子もない。もう戦わないのか?とも思ったが、顔を上げると俺を睨みつけてくる。自分に睨まれるという不思議な経験だと思ったがそんな悠長にしてる場合ではないのかもしれない。もしかして……怒ってる?今まで手加減してたのかもしれないし、警戒をもう一段階くらい引き上げとくか。切り札も一枚使ってあと二枚。攻撃系のやつじゃないから、さっさと引いてくれると助かるんだけどな。ま、頑張るか。


 「俺」は構えもなしに大地を蹴り、こっちに飛び込んでくる。「俺」が【火球】と唱えると、同時に二つの火球が俺に向かって放たれる。俺は動揺したが、一つは避けもう一つは剣で斬った。直接剣で火の魔法を切るにはまだ腕が足りないので、【結界】を剣に纏わせて斬った。俺に接近してくると、「俺」は片手では振れない重さの剣を軽々と振って斬ってくる。何度も、何度も、何度も。そこには明確な殺意があった。さっきまでの余裕さを感じさせるような独特な雰囲気は霧散している。殺意を認識しながらも、俺は敵の剣を捌く。軽い傷がどんどんとつけられているがただそれだけ。決定的な致命傷になりそうな攻撃を判断し、他は甘んじてくらう。痛い。苦しい。逃げ出したい。そんな気持ちが湧き上がってくる。ちりも積もれば山となるじゃないが、軽傷でも何度も受ければ痛い。こんなに苦しい戦いは初めてだ。いつもの訓練なんて比じゃない。本物の死と隣り合わせの戦い。集中しなきゃならないのに、痛い、苦しいという感情が思考を乱す。傷は増えていく一方。絶え間なく続く斬撃に反撃する暇がない。まさに絶対絶命。どうにか隙を作り出さないといけない。こんなに短時間でもう一枚切らなければならないのか?こんなペースじゃすぐに最後の一枚も切ってしまう。でも、ここで最後の一枚は絶対に切れない。アレはまだ俺には使いこなせない。しかも、攻撃系じゃゃないから自爆覚悟の一発、みたいな真似もできっこない。

 ……もう、二枚目を切るしかないのか。埒が明かないから、切るしかないんだけども。俺は頃合いを見計らって、ここだと思ったときに、【二重結界】と唱える。「俺」の攻撃は一枚目は破壊したが、二枚目までは壊せない。その隙に剣を振り下ろす。肩口らへんから思いっきり斬れると思ったが剣が少ししか入り込まない。剣が抜けなくなるのはまずいと思い、剣をすぐに抜く。「俺」は距離を取ろうとするが、逃がさない。すぐに地面を蹴り近づく。今度はこっちのターン。俺は剣を握る手にさらに力を込めて剣を振る。しかし、致命傷は与えられない。そんな自分に苛立っていると、隙を突かれて逃げられる。「俺」は木に向かって走ると、駆け上り、幹を蹴る。俺は呆気にとられる。そして、それが隙となる。「俺」は空中で【結界】と唱え、その結界を天井として思い切り踏み込む。結界は割れず、「俺」は俺に向かってまっすぐ急降下してくる。防御のために咄嗟に腕を出すとそこに剣が叩きつけられる。

 やばい、まずい、痛い。切り落とされはしなかったが、骨が完全に逝った。不幸中の幸いというか全然幸いでもなんでもないが、聞き手じゃない左手が折れた。しかし、それでもピンチだ。両手で剣を持っていたのに持てない。どうする。考えろ、考えろ、最後の切り札はこの状況じゃ無意味。ここでもう一個新たな切り札を作り出さなければならない。頭を限界までぶん回せ。アイデアを絞り出せ。この状況を逆転できる、いや少しでも好転させるアイデアを。


 片手が折れた。剣が振れない。腕力が足りない。体力も限界に近づきつつある。魔力はまだ持つ。考えろ、考えろ。魔法で必要なのは想像。十分な魔力とその魔法が発生するまでの道筋を想像できればいい。まだ何かあるはず。まだまだ俺は足掻ける。ここで死ぬわけにはいかない。


 



 そうか、あの魔法なら、あの魔法が使えるならこの状況を好転させられる。考え抜け、どう想像したらいいかを。まずは保険を張っておこう。

 魔力は血管に流れている。しかし、目には見えない。それほど細かいってことだ。だったら、神経にも流せる。想像すればいい。自分の血液にある魔力が神経にいく過程を。鮮明には描けない。でも、想像できないなら、言葉にすればいい。自分が何を考えているのかを。詠唱にルールはない。自分がどうやったらその魔法を思い描けるか、それだけが大事だ。これは自己流の考え方だと父に教わった。世間の一般的な見解とは異なるらしい。そんなことは今はどうでもいい。たどたどしくてもいい。言葉にすれば思い描ける──。そんな気がする。


「『……脈にある熱を、ひと筋だけ。静かに、神経の路へ移す。……過度にならさず、細く保つ。流れが触れ、明度が上がる。……思考の輪が、速さを得る』

【神経強化】」


 その瞬間、思考がさらに速くなる。神経を強化させることで思考加速の上乗せをする。そして次が大本命。


「『……魔力を纏う、全身に。その纏いは己を強化する。……力を得る。今の己に足りない力を』【身体強化】」


 その瞬間、体が軽くなる。先程までの苦しみはどこへいったのか。今ならなんでもできるような気がする。

 勝てる。絶対に。


 駆ける、駆ける、駆ける。逃がさない。距離をとらせない。隙を与えない。振る、振る、振る。片手で剣を。弾く、弾く、弾く。相手の攻撃を。

 押している。一方的な展開だ。思考がクリアだ。相手の行動が読める。些細な手の動き。体の運び。視線の方向。その全てを分析して、次の行動を予測する。

 「俺」の剣が折れた。俺の猛攻に耐え切れなかったのだろう。焦りが顔にでている。勝った。そう俺が確信をして、最後の一撃を入れようと剣を振り下ろそうとした時、視界が揺れる。なぜか倒れるかのように。いや、違う。倒れているんだ。俺の体が。……そうか、そういうことか。ああ、こんな最後の最後で魔力切れとはな。俺も全くついてない。まさか、こんな形で死ぬなんて思ってもいなかったな。でも、満足かもしれない。達成感があるといった方が正しいいか。全力は出せた。来世がまたあるのかもわからないけど、その時はもっとうまくやって見せたいなぁ。

 そうして、俺は気を失った。















 小鳥のさえずりで意識が覚醒する。暖かい光が当たっているのか、すごく気持ちがいい。

 ところで、ここはどこだろう。そう思い目を開けてみると……見慣れた天井だ。いや、そんなはずはない。俺は確かに死んだはず。これはそう、多分夢だな。あそこから生き残るなんてことは不可能だ。しかし、頬をつねってみても痛いだけで何も起きない。一体全体、どうなっているんだ?




 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。

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異世界オタクの異世界転生記 ぽてと @poteto0527

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