俺 VS「俺」
……ふむ。一体全体どういうことだ?なぜ「俺」が目の前にいるんだ?てか、そもそもあれは本当に「俺」か?俺にそっくりな気はするけど、もしかしたらそっくりさんだという可能性もあるか。
状況が飲み込めず、俺は混乱しているが、どんどんと「俺」は近づいてくる。
今の俺と同じ服に、二本の剣を背中に抱え、布地の小さめのバックを持っていた。
「俺」は俺から十メートルくらい離れたところまで近づいてくると、バックから取り出したビンを投げてにた。何かの攻撃かもしれなかったが、咄嗟にキャッチしてしまう。
ビンを見てみると、その中には赤色の液体が入っていた。これは………なんだ?わけがわからず、「俺」の方を見てみると、「俺」はそのビンの中の液体を飲んでみせた。
これは俺も飲んでみろってことか?でも、さすがにこれを飲むのは危なくないか?『並列思考』を使って、いつでも戦闘に入れるようにしているから、こんなにのんびり考えているけど、これに毒とかが入ってたら、戦闘どころの話じゃない。
あいつはこれを飲んでみせたが、これに毒が入ってないという保証はどこにもない。あいつを信じれる要素もないし。
まぁ、楽観的に考えるなら、これを飲んでしまっても構わないと思うし、俺の直感も飲んで大丈夫だと言っている。というか、飲みたがってる。ポーションみたいな見た目をしてるし。
よし、飲んでみるか。そうして、コルクのようなビンの蓋を開けてポーションもどきを飲んでみた。
………うーむ。何も変わらない気がする。体に変な感じはしないし、意識もはっきりしてる。痛いところとかもないし……。
あれ!?ちょっと待てよ?あぁ、なるほどな。これは、痛みを抑える系のやつか。そうだよな、〈並列思考〉を使っているのに頭痛がないわけなんてないもんな。いつも頭痛がしてるから、それが当たり前に感じてた。じゃあ、これとんでもないやつだよな?高額か、それか目の前にいる「俺」が作ったのかのどちらかであることに間違いはないだろう。安価だったら、両親が買ってくれそうな気がするからな。
俺が一通り考え終わり、目線を「俺」に向けると、やつは剣を二本抜いた。……えぇ?俺の体格で長剣二本扱うのは無理だと思うけど。そんなことを思っていたが、「俺」は左手に持っている剣を、攻撃する感じもなくこちらに投げてきた。
ほう?これは正々堂々勝負しようや的なノリか?いいね、いいね。そうこなくっちゃ。なんで俺と同じ見た目のやつがいるのかはわからないけど、折角だしこいつで腕試しと行きますか。
剣を拾い、「俺」を正面に構える。
先に動いたのは俺。地面を強く蹴り、接近する。相手の出方を見るのも悪くないが、こちらのペースに持ち込みたい。横薙ぎをするが弾かれ、剣の軌道をそらされる。そのまま「俺」は攻撃をしてくるが、さすがにそれくらいは読んでいる。【結界】と唱える。結界は「俺」の攻撃を弾き、俺は斜めに剣を振り下ろす。決まった!そう思ったが、何かに攻撃が弾かれる。チッ、結界か。俺はすぐにバックステップをして、距離を取ろうとする。それを見て、「俺」は距離を詰めてくる。しつこいなっ!仕方ないか。魔力は温存しときたかったんだけどな。
「【
そう唱えると、俺の後ろに下がりながらも、伸ばした左手から火の球が飛び出す。直撃は避けたかったのか、「俺」は大きく体を捻って躱した。俺はやつが体を崩すと思い、止まって攻撃に転じようとしたが、なんとなく嫌な予感がして、そのまま距離をとる。案の定やつは、【風刃】を唱え、繰り出した。
まじか、こいつも無詠唱できんのかよ。ますます、俺そっくりじゃん。俺のコピーである可能性も検討しとくか。俺はそのまま、魔法を対処する。【風刃】は来るとわかっていれば簡単に片付く。結局は風の集合体でしかないし、初歩の魔法だから威力も弱い。だから、ある程度距離が離れていれば剣でも斬れる。バックステップをしていたので、ある程度距離があった俺は何の危険もなしに、魔法を斬った。
そして、きちんと距離を取り直し、再び剣を構える。「俺」も魔法を放った後に体勢を崩したが、すぐに立て直し剣を構えた。
次に動いたのは「俺」。距離を詰めて、シンプルな数の攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を俺は軽々と弾いたり、受け流したりする。いやー、それにしてもマジでポーションもどきさまさまだな。ほんとに思考がクリアだ。いつもは思考加速分が頭痛で相殺されるけど、今回は違う。ポーションもどきが頭痛を抑えてくれてるから、戦いやすすぎる。こうして、考え事をしていてもこいつの攻撃が捌けるくらいには余裕が生まれてる。
「そろそろいいだろっ!」
俺は「俺」の剣を上にそらして、胴体に横薙ぎを食らわす。浅いな。寸前で体をずらしたか。おしい。
一方「俺」は、攻撃を食らったことが許せないのか、顔が怖い。こいつは俺の顔でなんちゅう表情をしてるんだ。
俺が何度も攻撃を繰り出し、じわじわと木の方に追い詰めて行く。壁という壁はないが、森に追い詰められたらこいつも分が悪いだろう。たとえ、
後少しで追い詰めれるといったところで「俺」が後ろに下がる。そして、やつはなんと木を蹴って、それを推進力として突っ込んでくる。
「そんなのアリ!?」
焦りながらも、横に転んでそれを避ける。すると、避けたところに【火球】が飛んでくる。やべぇ。とっさに【水球】を放って、相殺する。
さっさと決めねぇとやばいかもな。とっておきをここで使っちまうか。
魔法が使える異世界で、魔法使いにとって大事だと言われることはなにか。それは、常に全力を出さないことだ。え?全力を出すの間違いだろう?と思う人もいるかも知れないが、それは違う。
魔法は効果がわかってしまえば、対処は簡単だ。【火球】には【水球】を。【風刃】は距離をとって斬る。みたいな感じで。だから、対処されないように相手に初見の攻撃をすることで相手から勝利をもぎ取れる。
あ、ちなみにこれは俺の自論。魔法使いはそうあるべきだと勝手に思ってるだけ。でもさ、カッコよくない?自分にしかないオリジナルとかの魔法を普段は誰にも見せないけど、ここぞというときにかっこよく見せつける。絶対に爽快だろうし、そもそも魔法使いの戦術としても悪くない。むしろ、いいほうだろう。相手を侮らせることもできるし、不意の一撃を加えることもできるし。
そこで、俺はこの世界でオリジナル魔法を創ることにした。どんな魔法がいいかなって考えたけど、最初は簡単なものを創ってみようと思って創ったのがこの【
この世界で、火の魔法は母親に初めて魔法を教えて貰ったときみたいに火打ち石で原理を学んで想像する。しかし、それで出来る火は全てオレンジと赤色の火だ。
現代人の俺からしてみれば、それは上手な火の扱い方というか、言い方は難しいがいい火ではない。小学生や中学生の頃に理科の実験でガスコンロをつけるみたいなことをやったことある人もいるだろう。あのとき、火は何色だっただろう。考えるまでもない。そう、青だ。酸素が上手く行き渡っていることで火は青くなり、そして熱くなる。これを利用しない手はない。上手く行けば、今使っている火の魔法の火力を簡単に上げることができるのだから。
ここからは化学のお話だ。火がつくことの原因というか原理は酸化反応だ。高一だったので、詳しいことはあまり分からなかったし、詳しく話すと長くなるだろうけど、端的に現代人の火の魔法的起こし方を作るならこうだ。
第一に魔法を起こしたい場所──例えば手のひらの前とか──に酸素を集める。第二に、塵や埃などの微粒子を燃料として反応しやすい状態に集める。第三にエネルギーを加えて酸化反応を起こす。
これの一通りの動作を頭の中に思い浮かべることで、火の魔法が発動する。
俺はこれを魔法習いたての頃から頑張り、習得していた。もちろん、指から火を出すだけとかではない。
じゃあ、いっちょお披露目タイムと行きますか!
俺は、木を蹴って突っ込んだせいで姿勢を崩している「俺」に向けて左手を向ける。
「【酸化点火 火球】」
その瞬間俺の左手から青白い光を放つ火の球が放たれる。
そして、その青白い光は「俺」を丸ごと包みこんだ。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。
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