成長
異世界に来てから、七年が経った。
七年かけてようやく、月日に関する情報を得ることができた。
今までは親に直接聞くと、違和感を持たれる年齢だったし、たしか七歳ごろから月日について大まかに知っていく時期だったはずだから、まさにちょうど良い頃合いだ。
母親からの話によると、この世界は一年が十一ヶ月、一月あたり四十日で構成されているらしい。
母は「一月」「二月」といった呼び方の代わりに、次のように月の名前を使っていた。
一月 ルミラ
二月 フロリナ
三月 アウレア
四月 ソラリス
五月 セリーナ
六月 ヴィリダ
七月 セリナ
八月 アウレヴィア
九月 クリュサ
十月 フリガ
十一月 ニヴァラ
俺の誕生日は十一月の四日、つまりニヴァラの四日だ。
それと、なんとなく気づいてはいたが、この世界ではアラビア数字が使われている。
前世とまったく同じ数字が使われているというのは不自然だ。
たまたま似た形が生まれたとしても、アラビア数字と全く同じ形になるのはほぼ不可能だろう。
となると、考えられるのは──俺と同じく地球からやってきた人間がいる、ということだ。
アラビア数字を広めた人物は、今それが定着していることからしても、かなり昔の人間だろう。
しかし、過去に地球人がいたという事実は大きい。
過去に地球人がいたのなら、今もいるのもありえなくはない話だ。
もし今も地球人がいるのなら、俺が忘れかけている地球の知識を取り戻せるかもしれない。
そうすれば、この世界についてもっと深く考察できる。
俺は、前世での妄想の中で多少異世界に関係のあることは全て記憶してきたし、今でもそれだけは絶対に忘れない自信がある。
だが、妄想の範囲外のことについては、時が経つにつれてどうしても忘れていってしまう。
だからこそ、他の地球人がいるなら、その知識をできるだけ得たいと思っている。
──まあ、この話はこれくらいにしておこう。
次は、この二年間での成長についてだ。
まず魔法。これはかなり伸びた。
初めて使った【灯火】のような魔法は“生活魔法”と呼ばれる、一番初歩的な魔法らしい。
それは基本四属性──火、水、風、土──のそれぞれで使えるようになった。
具体的には、
水が【
風が【
土が【
といった感じだ。
“基本四属性”という呼び方の通り、これ以外にも上位属性が存在する。
炎・氷・雷・聖・闇・空間の六つで、これらは“上位属性”と呼ばれている。
この六つは取得がかなり難しく、今のところ使えるのは、俺が空間属性の初歩である【結界】、そしてファルが氷属性の初歩【
両親やリートによると、この年齢で上位属性の初歩を使えるのはすごいことらしい。多少おだてもあるだろうが、そう言われるとやっぱり嬉しかった。
ちなみに、上位属性の魔法は使える人自体が少ないため、“生活魔法”という区分が存在しない。
だから、初歩魔法としか呼びようがない。
他にも、魔力は使えば使うほど総量が上がっていく。これは予想はしていた。
最初の頃は魔力切れは良くないと思っていたが、魔力を使うこと自体は魔力総量を伸ばすのに最適だとは思っていた。魔力がどういう原理で自身の身体にあるのかわからないが、一番現実的なのは魔力を生み出す臓器──以下、魔力の源となる臓器から、“魔源臓”と呼ぶ──が体にあるという可能性だ。
魔源臓は筋肉のように、使えば使うほど発達するのだと思う。
魔源臓は筋肉と同じ感じで使えば使うほど、身体から魔力が不足して、もっと多くの魔力を生み出さなければと強くなっていくものだと思われる。
だから、魔源臓的な臓器があれば、魔力総量が増えていくのは納得のいく話だ。
もちろん、よくある魂の器がどうのこうの的な説も否定はできない。
とにかく、異世界を解明するためには、どんな仮説でも排除せずに考えていくことが大事だ。
また、魔法の強さは“想像の鮮明さ”と“込める魔力量”に依存するらしい。
つまり、弱い魔法でも魔力を大量に注ぎ込めば、とんでもない威力になる。
俺の【結界】も、魔力量次第でどこまでも堅くなるし、逆に言えば今はとても脆いということでもある。
魔法の成長はそんなところだ。
生活魔法以上の魔法はまだ危険だと言われ、教えてもらえていない。
十歳くらいになったら教えてもらえるだろうか。
俺のスキルは練習すればするほど伸びていくから、なるべく長い年月、鍛え続けたい。
ただ、ファルにはいまだに勝てない。
魔力量の伸びが違いすぎる。
俺がこっそり練習しているから、今のところ差は二倍まで広がっていないが、それも時間の問題だろう。
次に、武術についてだ。
「魔法だけに専念するんじゃないのか?」と思うかもしれない。
でも〈並列思考〉というスキルと、魔法には集中と想像を要することを踏まえて、俺はいいことを思いついた。
並列思考を使えば──魔法と武術を同時にこなせるんじゃないか? ということだ。
そう思い立ってすぐ、両親に武術を教えてほしいと頼んだ。
最初は「魔法がそれだけ使えるなら武術はいらない」と言われたが、近所の子が“勇者の剣”ごっこをして木の棒を振り回しているのを見て、「カッコいい」と思ってしまい、少しでいいからやってみたいと頼み込んだ。
すると、渋々ながらも教えてくれることになった。
魔法を始めて習ったあとすぐくらいから剣を始め、今も体力を鍛えつつ、素振りや基本の型を練習している。
習っているのは剣術だ。短剣やダガーも考えたが、やはり王道の剣を学んでみたかった。
教えてくれているのは父だ。
ただし父は剣術があまり得意ではなく、基本的なことしか教えられないらしい。
それ以上のことは、剣の心得がある知り合いに頼む予定だと言う。
何から何まで面倒を見てくれる父には本当に感謝している。
自分でも、俺のような子供がいたら嫌だと思う。
だからこそ、俺なりに親孝行はしているつもりだ。
……尊厳を捨てて、かなり子供っぽいことをしてる。恥ずかしいから内容は言わない。
──ここ二年の成果はそんなところだ。
これからも、どんどん頑張っていこう。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。
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