魔法の勉強

 俺が急いでご飯を食べ終わり、食器をキッチンに持っていくと、母が話しかけてくる。


「フリーク、なにか困っていそうだったけど大丈夫?困ったことがあったら何でもママに聞いていいわよ。」


「じゃあ、ママ。まりょくってなに?」


「う〜ん、魔力ね〜。簡単に言うと、魔法を使うために使う不思議な力、かしら?」


「でも、ぼく、ぎのうつかったら、まりょくぎれになったんだよ?」


「そういう技能もある、としか言えないわ。技能はたくさん種類があるのよ。」


「へぇ〜、そうなんだ!」


「ところで、フリーク。今から私が魔法を教えてあげるって言ったらどうする?」


「え!! ほんと!! おしえて、おしえて!」


「せっかく魔力の話をしたからね。本当はパパが教える予定だったんだけど、先に教えてあげちゃうわね。」


「やったー! ママ大好き!!」


 俺はそう言って母に抱きつく。子供としてこうするのが自然だと思ったからやったけど、やっぱりきついな。尊厳がガリガリと削られていく。


「うふふ、パパには悪いことしちゃったかしら? でも、これも教えるのを渋ったパパは悪いのよ。」


 そう母が小さな声で呟くのを聞いて、子供に大好きって言われるのってそんなに嬉しいことなんだと思った。


 ◇


 食器も洗い終わり、他に家事で手伝うこともないらしいので、早速母が魔法を教えてくれることになった。

 ちなみに、俺の横にはちゃっかりファルもいる。俺が魔法を教えてもらうことを話していたのを聞いていたから、「ファルも!ファルも!」みたいな感じで言ってきて、俺と一緒に教えられることになった。

 2年前は魔法に嫌悪感持ってたのに、子供ってのは心の移り変わりが早いな。


 まあ、そんなことは置いといて、俺達は今自分の家に帰ってる。ファルとリアにとっては自分の家じゃないけど。

 家の中だと危険な可能性があるし、ファルの家には庭がついてないから、小さいけど庭がついてる俺の家でやるらしい。


 ランラン気分で家に着くと、早速庭で魔法の勉強が始まる。


「ママ! はやくまほうおしえて!」


「そうしたいのだけれど、魔法を使うにはまず魔力を感じる必要があるのよ〜。」


「「まりょくをかんじる??」」


「そうよ。今からやり方を教えてあげるからやってみてね。まず、二人は血って分かるわよね?」


「うん。けがしたときの、あのあかいのだよね?」


「ええ。手のここの部分に指を軽く当てると、脈って言うのがわかるの。とりあえず、二人もやってみて。」


 そう言いながら母は、前世でもよく脈を測る時に使う手首の親指の方のところを当てている。

 医療が少しでも発展しているのなら、この世界でもこれぐらいのことは分かるのだろうとも思いつつ、言われた通りに脈を測ってみる。ファルも言われた通りに、脈を測ってみてる。


「そしたら、トクトクなっているのがわかるでしょう?それが脈っていう、う〜ん、なんて言えばいいのかしら。血の流れ?みたいなものなのよ。それをもっと強く集中してみると、もう一つなにかが流れているのがわかるのよ。それが魔力なの。」


 母が言ったように、血液の流れを意識してみると、確かに二つの流れが感じられる。しかし、子供の脈が速いからかどっちが血液の流れかがはっきりと区別できない。

 片方がトクトクとなったら、すぐにもう一方もトクトクとなるので、ほぼ連続して脈があるように感じられる。


「二人とも、血の流れと魔力の流れはわかった?」


「ぼくはわかったよ!ファルはわかった?」


「わかった!あっちがまりょくだよね?」


 あっちってどっちだよ。だが、ファルが魔力をおそらく区別できていることに驚きを隠せない。忘れかけてはいるものの、前世の知識がある俺がわからないのに子供のファルがわかるなんて。


「え!ファルわかったの?ぼくどっちがまりょくかわかんない……。」


「まぁまぁ、あまりフリークはがっかりしないほうがいいわよ。リアから聞いたけど、ファルちゃんって魔法の才能を与える技能をもらったのよね?だったら、魔力がすぐにわかるのもあり得る話だわ。」


 そういうことか。スキルの恩恵で、魔力を強く感じられるみたいな感じか。俺の〈天道無窮てんどうむきゅう〉は別に先天的な魔法の才を与えるものではないしな。どちらかというと、伸びしろが無限にあるみたいなやつだからな。


「じゃあね、ファルちゃんは少しだけ待ってててね。フリークに魔力を教えて上げるから。」


「はーい! フリーク、どう?ファルすごいでしょ!」


 ファルが勝ち誇ったような顔をしてくる。


「いいもん!ぼくだってすぐにできるようになるもん!」


「その心意気はとっても大切よ。じゃあフリーク、頑張りましょう!」


「うん!ファルにはまけない!」


「フリークは二つの流れはわかるのよね?」


「うん!」


「だったら、その少し弱い方が魔力なんだけど、わからない?もっと集中してみると、違いがわかると思うわ。」


「わかった!やってみる!」


 先程よりも、強く集中して二つの流れを意識すると、段々二つの区別がついてくる。なんとなく、こっちが魔力のような気がしなくもない。少しだけ弱いような気がする。でも、確信は持てない。


「う〜ん、わかるようなわからないような。へんなかんじ。」


「それは困ったわね。う〜ん、どうしようかしら……。」


 俺には才能がないのか?そんな、せっかく〈天道無窮てんどうむきゅう〉のスキルももらったのに。さすがにそんなのは悲しすぎる。……待てよ?〈思考加速〉や〈並列思考〉って魔力を消耗するよな?それ使えばもしかしてわかるんじゃね?

 血液と同じように魔力が流れているのなら、魔力を消耗したら、その失った部分の魔力を補うために、魔力の流れが速くなるんじゃないか?失いすぎたとしても、血液のように流れが遅くなるだろうし。


「ママ、ぎのうをすこしつかったらわかるんじゃない?」


「なるほど、確かにそうかもしれないわね。でも、ママは心配だわ。昨日倒れたばっかりなのに、今日も技能を使うなんて。」


「すこしだけだよ!すこしだけ!だったらいいでしょ?」


「本当にすこしだけよ?わかった?」


「うん!わかった!」


 頭痛は酷いが、発動してるのがハッキリとわかる〈並列思考〉を使うか。


〈並列思考〉


 前と同じように、もう一人の“俺”が生まれる。すぐにやめるように考えると、〈並列思考〉は止まった。

 今の一瞬で、明確に魔力の流れがわかった。〈並列思考〉時は頭の部分から魔力が使われていく。これは思考を並列にしてるんだから当然の流れだと言える。そして、そのなくなった分を補うように片方の流れが速くなった。これが、魔力だろう。


「ママ!わかった!まりょく!」


「まぁ! 本当にわかったのね、フリーク。すごいわ!……でも、もう技能は使っちゃだめよ? 昨日のこと、ママまだ心配なんだから。」


 母はそう言いながら、ほっとしたように微笑んだ。


「うん!わかった!」


「じゃあ、二人とも魔力がわかったから、次のステップを教えるわね。次はとうとう魔法を使うわ!」


「ほんとに!? はやくおしえて!」


「ファルにもおしえて!」


「まず、魔法を使うのに一番大切なものは想像よ。」


「「そうぞう?」」


「そう、想像。使いたい魔法をどれだけわかりやすく想像するかで、魔法が使えるかどうかが決まるのよ。」


 へぇ〜、この世界では想像が大切なのか。よくある世界観ではあるけど、どのくらい鮮明に想像すれば発動するのだろう。


「例えば、私がご飯を作るときによく使う、火を出す魔法は火が生まれる様子を想像しながら使ってるのよ。」


「フリークママ、それってどんなのなの?」


「そうなのよね〜。二人は魔法以外で火を見たことないだろうから、その想像って難しいのよ。でも、安心して、この時のためにパパが買っていた火打ち石があるのよ!」


 ジャジャーンと効果音でもついてきそうな感じで、母は火打ち石を取り出した。父の頑張りを全部掻っ攫っていくこの豪胆さ。我が母ながら、凄まじいな。


「じゃあ二人とも見ててね!火が付くところを。」


 先程取り出した火打ち石と、いつの間にか持ってきていた鉄のなにか──おそらく火打ち金──と細かくなっている布を机の上に用意した母は、火打ち石と火打ち金をそれぞれの手で持って、火打ち金を火打ち石に打ちつける。その衝撃で火花が飛び散る。

 母がうまく布を火花が受け止められるように構えていたので、うまく火花が布にかかる。


 すると、赤い火種が出来上がる。母は布にそっと息を吹き込む。

 やがて、小さいながらも立派な火が生まれた。


「すごい!すごい!ねぇ、ファルもすごいとおもうよね?」


「うん!すごい!」


「どうかしら?これで、火がどうやってできるのかはわかった?」


「「うん!!」」


「じゃあ、あとは今の光景を思い浮かべながら、指から火が生まれるのと指先に魔力を集めるのを想像して、【灯火】と唱えれば、ほら、こんなふうに魔法が使えるわ。」


 母が【灯火】と唱え終わると同時に、小さな火が人差し指の先端からできる。

 ちなみに、火は熱くないらしい。リートが言ってたんだけど、そもそも魔法の火とさっきの火打ち石と火打ち金とで起こす火の仕組みが違うらしい。難しい内容だからといって詳細は教えてくれなかった。


「二人もやってみて。」


 よっしゃ。やってみるか、初めての魔法。

 人差し指を立てて、先程の光景を思い浮かべる。そして、火を出すのと、魔力を人差し指に集める想像をする。そして、唱える。


【灯火】


 指先から「ぽっ」と音がする。それと同時に、指から火が生まれた。

 す、すげぇ。本当に魔法が使えた。魔法を見てるのもすごい楽しいけど、こうして本当に魔法を使うのはもっと楽しいな。

 しょぼい魔法なんだろうけど、すごく嬉しい。初めての自分の魔法って考えると心が弾む。

 横を見るとファルも無事、指先から火を出していた。しかも、俺よりも火力が強い。才能の差が如実にょじつに現れている気がして、少し悔しい。


 二人とも一発で成功させてるのを見て、母は少し驚いた様子だ。


「す、すごいわね。二人とも。一回で魔法を使っちゃうなんて。(もっと、苦難しているかわいいフリークが見られると思ったのに、少し、いやかなり残念だわ……)」


 なぜか母は少し残念そうな顔をしているが、火力が負けて悔しいので、ファルに話かける。


「うわ、ファルのほうが火おっきいじゃん!」


「ふふ〜ん、またファルのかち〜!」


「まだはじめてだもん!つぎはまけないから!」


「はいはい、喧嘩しないの。」



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。


 それと、後日修正は入れるのですが、思考加速の効果を少し抑えようと思います。

 具体的には、もう少し加速の度合いを抑えて、あまり思考が加速している実感が湧かないくらいにする予定です。

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