第4話 僕の住む桜城の町の彷徨える魂たち
秋がもうそこまで来ている。
木々たちが、いまは
抱き合ったまま離れられずにいる僕と
「姫、
「はい、小夜は
「
「いいえ、正太郎様、それは違います。正太郎様と逢えずにいたのは、私にとってはとても辛いことではありましたが……でも、その間に小夜に元気付けていた人がおりました。正太郎様も会ったことのあるお婆の
小夜姫は、僕の目を見て話していたが、急に目を
「姫、どうしたんですか? 何か辛いことでも聞いたのですか?」
姫は、顔を上げたのだが、目には涙が
「……正太郎様。御父上様が、小夜の御父上様が……殺されたそうです。それも、正太郎様の配下の
「エッ? まさか、マサが……そんな、そんなことって……」
「嫌え、正太郎様そうではありません。本当の
姫は言葉も最後まで語れずその場に泣き崩れそうになるのを、僕は体を張って支えた。っがしかし、姫には重力とか自然の
姫はさぞ
そんな
「悔しいだろうなぁ?……」
「……ウッ、ウン」
「さぞ
「ウッ、ウン、それは
「ほら此処だよ……
振り向くと、僕の後ろの大きな岩の上に学生服のブレザーを着た女の子がしゃがみこんで僕たちを
「って、やっぱり誰?……」
「ウフフ、正太郎様この方がお千代です。あのお婆の生まれ代わりの……」
お千代という女の子は短いスカートの
「ヨウ!、久しぶりだな。
お婆の生まれ代わりというから僕は勝手に
「コラッ、純一、何をお前えはジロジロ見てんだよ。俺だって、小夜姫様と同じ十六なんだ、気を付けろよ。お前にだってデリカシーというものはあんだろう……」
「アッ、ごめん。ついお婆の生まれ変わりっていうからてっきり皺くちゃなお婆ちゃんだと思っていたか……こんなに若い子だなんて想像していなかったから」
「フンッ、純一、その言葉を忘れるなよ」
「何を怒っているの? 別に悪口を言っている訳じゃあないのに」
「アアー、その内に分かることさ……それより、
言葉の最後は、力なくボソッと言った。
「アッ、そうだ! それよりも、これからのことを考えなくちゃぁ。このままだと小夜姫様はこの世から完全に消えてしまうことになるからな」
「エッ! な、なんで? どうして姫が消えてしまうの? やっと、僕は姫に逢えたというのに」
「だから、そのことを話し合おうと言っているんだ。何も救える手だてがない訳じゃあないからな」
「じゃ、じゃあどうすれば善いの? 僕は、姫を救えるのなら何でもするよ」
「
「ンッ、なに? 姫以外にも救える大勢の者って」
「それはな、先ずは……ウーン、先にこの地の歴史から話さないとな……」
お婆の生まれ代わりのお千代が
「この地は、元は緑の庄と呼ばれておって、作物は常に
姫様の御父上様が、姫様が生まれた時にその桜の木の下で酒宴をお開きになられて、その時、桜の花が夜にほのかに香るのを
お千代は、まるで僕が前に会った初代お千代のように腰を丸めて僕に返答を求めるように眼を向けていた。勿論、僕の答えは「行かねば……」だったが、何を行かねば、嫌、何をって決まっている小夜姫の為だ、しかしどうやって……お千代は、僕の表情を視て取ってか。
「純一よ、そう
唯、しかし純一よ。先にも言ったように手立てがない訳ではない。それはな、何故に姫はこの世に現れたかじゃ。ただ純一を迎えに来ただけならば、そのまま純一と共に元の時代に戻ればよいのじゃが、ワシには姫には使命があって来たのじゃと思う。それは、純一に正太郎殿と云うもう一人の生まれ変わりがいたように姫にもな。だから純一よ。小夜姫様の片割れ、姫の生まれ変わりがいるであろう、その人を見つけ姫と交わり、さすれば分かることだと思う。ワシには、それが一つの
「しかし、お婆、嫌お千代の云う小夜姫の生まれ変わりはいったい何処にいて、何をしている人なんだ」
「うーん、それはワシも分からぬこと。しかし、ワシは信じている。時を司る者の
「ふーん、時を司る者の意思?」
僕は、
「純一、今は考えるなよ。自分の中に答えのないものをどんなに考えてみても
何が
そうだ、僕にはこの世では一つの家庭を築いていた。彩という妻を持ち京一という子までいるのだ。そのことは、何て小夜姫に話せばいいのだろう。
「純一、気にすんな。今のお前の状況は全て小夜姫様には話してあって、純一自身が知らないことだって姫様にはもう
「な、何? 僕の知らないことって……それは、どういうこと?」
「嫌々、純一お前は知らない方がいいよ。何せお前は思ったことが直ぐ顔に出るんだからな。相手にも直ぐばれてしまうから、純一の為にも知らない方がいいよ」
僕には、お千代の言うことがさっぱり分からないでいた。小夜姫を見ると微笑んではいるものの何故か目の奥に不安を隠せないでいる。
「正太郎様、どうぞお気を付けてお帰りを、そして明日もまたこの小夜の許に来て下さいませ」
夜明けには未だ時間はあるが、月が木々の彼方へ沈んで行こうとしていて、小夜姫の姿も薄らいで行き掛けている。
僕は、傍にお千代がいるのに
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