第3話 月が奏でるホログラム
「
「
「高柳君……」
「高柳ー……」
ウーン、僕を呼ぶ声がする……ウーン? ハッ!。
「姫、姫は
僕は、目を開き小夜姫を、眼で捜した……・っが、僕の目の前には
「オオー、ぼっちゃま。心配しましたぞ……」
「オオウ、高柳。心配したぞ。急にお前がいなくなって……」
「もう、高柳君。心配しちゃったわ……」
「皆さん、お静かに。高柳さんは、
と、言って、ポケットから携帯電話を取り出し、電話をし始めた。
しかし、その看護婦の
「お坊ちゃま、もうこのじいは心配で、心配で死にそうでした。しかし、お坊ちゃまを残し死ぬ訳にもいかず、
「高柳、お前が山で
「もう、高柳君のバカー。私を独り置いて
そうだ、僕は、彩に卒業間際に
「オイ、高柳、聞いているのか? 何だよ、姫って。
「ネエ、姫って、私のこと? もし、他の人なら私、高柳君許さないからね」
アッ! そうだ、小夜姫はどうしたんだ? もしかして、あれは僕が遭難に遭い病院に担ぎ込まれて……そう、その間に
そこへ、僕の
「じい、心配を掛けて仕舞い、悪かったね……ごめんなさい」
「いいえ、いいんですよ。私はお坊ちゃまが、元気でいて下されば。唯、それだけで……」
治じいは目に涙を溜めて、肩を震わせた。
僕は、じいにまでこんなに要らない心配を掛けてしまったんだ。本当に、僕は周りのみんなに心配を……!?。
「じい、京本に彩ちゃんは、どうしたの?」
「アッ、お二人は、検診に時間が掛かるだろうからと、帰って行かれましたけど?」
「
「はい、お坊ちゃま。そのことで、お坊ちゃまはお父上の後をお
「ウッ、ウ~ン、やっぱり、その件なら僕より
「何を
「ウッ、ウ~ン」
そうなのだ。僕には兄がいた。しかし、兄は
治じいは、僕のベッドの側で
しかし、とてもリアルな夢を僕は見たものだ。小夜姫か、何故だろう? 不思議だ。彼女のことを考えると胸のドキドキで、やはり夢の中で感じた、あのときめき感が今も残っていて、妙に落ち着かない……。
もっと、現実的なことを考えなくちゃあいけないって、ことなのだろうか?。
僕は、先月、沢口彩に告白されたのと、京本からの山登りって言うより、トレッキングとか云っていたっけ? そのトレッキングに行って、午前中に山の
山に登るために、僕たちは事前にネットで、そこの山の天気はスポット予報で調べて
僕たちは、そんな
人は、自分の中で
もう少し、落ち着いて考えてみよう、もっと現実的なことを……先ずは、僕の今後のことを考えなければ……。
ウーン、僕には、やっぱり父の会社を継ぐには……ウーン、僕の
ハッ!? 気が付いたら、僕のことを、不思議そうに治じいが林檎の皮剥きの手を止めて見ている。
「坊ちゃま、どうしました? 何処か、まだ痛いのですか? 先生をお呼びましょうか?」
「ウッ、ウーン、嫌、何でもないよ。大丈夫だよ……大丈夫なんだって」
じいは、心配なのか、やたらと僕の
僕は、病院を退院して。時は忙しく過ぎて往き、一年が経った。僕は、もうすぐ父親になる。子供の母親は沢口彩……嫌、今は高柳彩だ。
大学を卒業して、父の経営する
そんな、春も過ぎようとしている
何でも、僕が遭難をした山の
その話を、彩は子供の
そして、彩もまたもうひとつ
内容とは、彩の母は酒屋の他にアパートも幾つか持っていて、そこの借りている人たちの中に母親と高校生の女の子の二人だけで住んでいる親子がいるらしいのだが、何でも、その幽霊の噂が発った頃から娘の方が
そんな話を聞いて、一週間程して。僕は、配達の仕事を
空には大きな満月が
きれいに
この山の麓の広く開けた平地を、もう少し行くと、僕が遭難をして発見された所だ。そこは、あの噂の幽霊が出ると云われている昔祠が在った場所だ。
僕は、そのままこの場を走り過ぎようとしていたら、風に乗って何やら、声らしきものが聴こえてきた。僕は、まさかラジオの筈はないと思いヴォリュームを
そして、今度の声も小さいものの、確かに「
僕は、舗装された道路から一気に
その時、明るかった景色は暗くなった。月が雲間に
ヘッドライトだけで車を走らせ、祠の在ったという場所まで来たが、其処には何も見えない。
僕が期待していたものは、何もなかった。車のエンジンを切り、僕は車から降りて周囲を見渡した。車のエンジンを止めた時にライトも切ってしまったからか、今は月が雲に隠れて
僕は、何を期待していたのか、自分でも訳は判らず、ただ本能に任せ
もう一度、車の方に戻りライトを点けようと車の方へ振り向いた時、月が雲間から顔を出し周囲を明るく照らし出した。
その
僕は、
しかし、僕の目の前に立っているのは、
嫌、あれは夢なんじゃあなかったんだ。
あれが、もし夢だとするのなら、今僕が見ている姫は幻? 今、僕はまた夢の中ということになるのだろう。
僕は、尻餅をついたまま、自分の
これは、夢なんかじゃあないんだ。
その時、目の前の小夜姫がまた声を掛けてきた。
「正太郎様……正太郎様。正太郎……」
僕は「姫ーー!」と叫び、言葉と共に姫に向かい立ち上がり、
いっ、一体、これは、どういうことなんだ?
「正太郎様……正太郎様は、何処におられるので御座いましょうや? 正太郎様……」
振り向く僕の眼に見えたものは、月に映し出されたホログラムのような小夜姫の姿だった。
やはり、僕の見ていた姫の姿は
嫌、違う。あれは夢なんかじゃあない。僕は、あの時、ハッキリと小夜姫に強いときめきを感じたし、姫をこの腕に抱き締めて、その時の
あれ以来、僕は仕事を早めに終わらせ、出来るだけの時間を幻かも知れない小夜姫の許へと通い続けた。
それが、如何に
そして、この幻のような姫のホログラムについて少し
満月の夜には、ハッキリと姿を現すのだが、新月の夜には
僕が、山の祠跡に来るようになって、半年が過ぎた或る日のこと、昼間、僕は店の倉庫の中を
それは、小夜姫が片時も離さないでいた。あの笛だった。
その笛を、彩の母に見せると、あの古い箱の中のものは全部がガラクタの
今夜は見事な程に、さても
僕が、車で祠跡に行くと、小夜姫は
以前、姫の前で
その時、
「嗚呼、その笛の
小夜姫は、僕の笛の音を
そして、姫は僕の手に触れようとした
「正太郎様、何故に、私は貴方様を視ることも触れることさえも出来ないのでしょうや? あぁ~正太郎様……」
僕は、姫が触れようとしていた手を見て、もしやと思った。
それは、僕の左手で。その手には、彩との結婚指輪が薬指に在った。
僕は、急いで
「嗚呼、正太郎様……やっと、私を見つけにやって参られたのですね。
小夜姫は立ち上がり、僕に駆け寄って来て、僕の胸の中に飛び込んできた。
僕は、又も姫は僕の体をすり抜けてしまうのだろうと思った。っが、その刹那、僕の胸に思いもかけず嬉しい
小夜姫の体は、僕の腕の中に……姫は、僕の胸にすがり泣いている。
「正太郎様、もう、小夜を……小夜を、正太郎様の手から離さないで下さいませ」
「嗚呼、小夜姫、もう誰が姫を離すものですか……小夜姫、この時をどんなに待ちわびたことか。もう、離しません。姫は僕の傍にずっといるのです」
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