X年、バッドエンドがいやな人のための&α
「うわぁ見てこれ。これ見て。カニさん」
「分かった分かった。いたいいたい。挟んでる挟んでる」
破裂した地熱は、世界を一瞬のうちに暖めた。混乱は起こらず、ただただ海が綺麗になった。まだ、氷は溶けきっていない。
「どう?」
「いや、カニに感情はなかった。いたいいたい」
海沿いの小屋。今度は、氷が溶けたときに発生する波浪を観測するために、ここにいる。
彼女。毎日のように海で遊んでいた。相当に楽しいらしい。
「許可願います」
彼女が、手を広げて近寄ってくる。
「よし」
あせもになるので、クーラーの無い外で抱き合うのは許可制になった。
「楽しい。楽しいです」
「よかったですね」
「まだ、こわいですか?」
世界が終わる。地熱が弾ける。その恐怖は、数年たった今でも拭われない。最初は心が壊れて彼女が誰なのかも分からなかった。
「こわいな。めっちゃこわい。雪山で自殺しようとしてた気持ちがいたいほど分かるよ」
「じゃあ、今度はわたしがあなたを拾いましょう。夏の海で。わたしを好きになるがよい」
彼女が、好きという気持ちは、じんわりだけど、ある。ただ、まだ彼女のように育ってはいない。
「ゆっくり育てましょう。好きを」
あせもの予感をお互いに察知し、離れる。
その二人の間を、さっきのカニがせっせと通りすぎていく。
ちょっと面白くて、ふたりで笑った。
常冬の山(と真夏のカニ) 春嵐 @aiot3110
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