3年 (end.)

「うわっ」


 揺れた。なんか揺れた。


「遂に来たな」


 彼が、毛布と枕を持ってやってきた。


「寝るぞ」


「え、まだ起きたばっかり」


「寝よう」


 毛布を被せられて、ベッドまで持っていかれる。枕持ってきた意味。


 抱き合ったとき。彼の震えを、ちょっとだけ感じる。


「こわいの?」


「ちょっとだけな」


 うそつき。めっちゃびびってるじゃん。


「世界が終わるとしたら。覚えてるか?」


 うわ。なんか数年前にそんな話したっけか。あんまり思い出せない。


「世界が終わるとしたら。寝てたい。俺も、ちょっとだけそう思うようになった」


 抱き合って。眠ろうとするけど、彼の震えが邪魔をして、ちょっと難しい。


「おはなししましょう?」


「人とあんまり喋ったことないから、質疑応答が上手くない」


「わたしとだけ喋ってればいいんだから、気にしないの」


 彼と、長く過ごした。

 わたしの好きが彼にあんまり伝播しなかったけど。わたしは、彼が好きでよかった。彼のことを好きでいられて幸せだった。


 たわいの無い話をした。

 彼が眠くなるまで。


「ありがとう」


 彼が、ちょっとじんわりする。


「こうやって、不安を和らげるんだな。ひとを好きになるっていう気持ちを、ちょっとだけ分かった気がする」


「まだまだこんなもんじゃないよ、わたしの好きは。ついてこれるかな?」


「善処します」


 彼。すべてを許すような。すべてを諦めるような。儚い感情が、あふれてくる。


「世界が終わるんだ。地熱がこの山に集中して、もうすぐ爆発する」


「そっか」


 なんだ。そんなことか。


「軽いな。世界が終わるんだぞ?」


「わたしの世界、もう終わってるの。この雪山に埋まって、わたしは終わる予定だった」


「まぁ、それはそうか」


「あなたに拾われただけ、幸せだったよ。こうやって、世界が終わるそのときに、好きなひとと抱き合って眠るんだから。満足です」


「すごいな」


「すごいでしょ。達観した女の自己肯定感」


 彼。少しだけ安心したのか。眠くなってきている。


「ゆっくりおやすみ。大好きよ」


 彼が眠るのを見届けたいけど。わたしも一緒に寝ちゃうから。


 続きは夢の中で。


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