2年

 拾ってきた女が、好意を示し始めた。


 繋いだ手から、伝わってくる。


「たぶん伝わっちゃってるので言います。好きです。きゃっはずかしい」


 全然分からない。好意という感情が、あまり理解できなかった。


「一方的だから、気にしないで困惑しててください」


 特に、何かが変わったわけでもない。寝る時間が増えた程度。


 抱き合って眠るのが、お気に入りらしい。夢が混ざり合って、ちょっと変な感じになる。


 とはいえ変化した部分はそれだけで、特に子を成すことを求められるとか接吻を求められるとかではなかった。それは助かる。子を成すことも、接吻も。あまり興味がない。


 山を眺める。吹雪に紛れて、山は確かにそこにある。山を眺めているときだけは、彼女も手を繋ごうとはしなかった。懸命な判断ではある。


 世界の終わりが、迫っていた。


 15年前から始まった地熱の集中は、この山の真下に溜まり続けている。もうすぐ山は破裂し、蓄えられた15年分の地熱が一気に地上を埋め尽くす。


「ひとを好きになるって、楽しそうだな」


「ね。わたしも初めての気分」


 悲しい境遇の女だった。顔が良いために祭り上げられ、失踪もかなりセンセーショナルなものとして取り上げられていた。絶世の美女の喪失。ばからしい。


 数日前から、微弱な有感地震が少しずつ増えている。


「おひるねの時間です」


 彼女が、枕と毛布をもってやってきた。

 山を眺めるのをいったん中止し、彼女と一緒に毛布にもぐり込む。暖かい。彼女の顔。目の前にある。


「あした、世界が終わるとしたら。何がしたい?」


 抱き合っているので、感情は伝播する。つまり、嘘が通じないし、疑問や不思議な感覚もすべて伝わる。最近は空腹も伝播して分かるようになった。


「世界が終わるとしたら。そうですね」


 彼女。考えている。あ。答えが出たらしい。


「こうやって抱き合って寝ます」


「寝るの好きだな」


「こうやって眠っていると。幸せです」


「俺も、そうしようかな」


 ちょっとだけ、地震。彼女が気付かないぎりぎりの震度。

 彼女の眠りを妨げないように。自分の上に、彼女を乗せておく。人力のショックアブソーバー。

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