第3話 投獄


「うぅ」


 暗闇の中目が覚めた。


「よくも我がアース帝国軍を半壊してくれたな、魔王」

「うるさい。そっちが勝手に私に向かってきただけじゃん」

「ふん、先に人を殺したのはそっちだろうか」


 手を見ると、上にあげられて立ったまま拘束されている。

 これ、手枷の内側に針がついている。足かせにも同様に。


 そして体は、棘のついたくさりに縛られ、私の体中から血が出ている。

 だが、馬鹿だな。この程度、ダメージなんて負わないのに。


 私を苦しめるのは毒だけだ。これくらいの痛み、屁でもない。

 でも、この厳重な拘束。ふつうに痛い。しかも毒の痛みも相まって地獄だ。


「動きたいなあ」

「動けるわけがないだろう、貴様が殺した人たちも家族がいるんだぞ、それぞれの生活があるんだぞ」

「へー、そうなんだね。私には一切の興味がわかないなあ」

「貴様!!」


 剣で腹を貫かれる。


「ごめんね、私死なないんだ」

「ほう、それは知っている。だが、痛みは感じるのだろう?」

「まーね。でも、私はそんなのどうでもいい。今の私の胸の中にあるのはお前たちに対する憎悪だよ」

「ふん、そんなのどうでもいいさ」


 そして座り込んだ。

 こっちは暇だし痛いんだけど。


「ぐうう」


 また痛みが強まった。別の場所で発した毒で誰かが死んだのか。川に毒を流しているし、毒の霧を発したし、アース帝国の民はどんどんと痛みを感じていくのだろう。

 それを楽しみながら、長い余生をこの狭い檻の中で暮らすのもありかもな。

 でも、私は苦しむ民をこの目で見たい。


「そうだ」


 私が拘束されてるなら、毒の分身体を作ったらいいじゃない。

 私は毒の分身体を作り出し、そのまま一気に町の方へと繰り出させる。


 一応看守を殺して鍵を奪うという手もあるけど、それは面白くない。

 拘束中に毒を飛ばし、敵を殺す。


「ポイズンソルジャー。お願いね」


 私が拘束されているのに、未曽有の危機に陥る。これがいいんだ。

 さて、私はポイズンソルジャーの視界を借りて、街を見る。

 ふーん、良い感じじゃん。この町の人たちの顔がどうゆがむのかが楽しみだなあ。


 行けえ。

 ポイズンソルジャーは敵を殲滅していく。

 そのたびに痛みが襲い掛かってくるけど、もはやどうでもいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る