第28話
その後、第一王子エイベルに続き、第二王子ブライアンとキャサリン・ブラッドショー侯爵令嬢との婚約も解消された。
エイベル、ブライアンとも王太子候補から外され、王位第一継承者に王の弟であるローランドが、第二継承者に第三王子リチャードが繰り上がった。しかし二人の継承権は剥奪されることなく、王太子の決定はしばらく保留となった。
ブラッドショー侯爵は流刑が決まっていたが、流刑地に送られる前に王城の牢内で倒れているところが見つかり、そのまま目覚めることはなかった。死因は不明で、嫡男の爵位継承は許されず、遠縁の者が引き継ぐことになった。
キャサリンは学校をやめ、王都から遠く離れた小さな領の嫡男に乞われ、嫁いでいった。少し年は離れていたが、昔から交流があり、家の事情を知りながらも縁を結びたいと望んでくれた人だった。
バーギン子爵家は聖女詐称で取り潰しとなり、元子爵は十年間鉱山で強制労働に、ロザリーは魔女の疑いがかかり北部にある監獄に送られた。しかし二ヶ月後、何者かの手を借りて脱獄したロザリーは、その翌日近くの森で遺体となって発見された。事故とも口封じで殺されたとも言われたが、真相は明らかになっていない。ブラッドショー侯爵の他にもこの事件に加担した者がいるのではないかと噂されたが、そこから先の捜査は進展しなかった。
夜会から二週間後に学校に戻った公爵令嬢は賛否両論だった。
王子に婚約破棄されてなお学校に通う無神経さ
王子に蹴りを入れた野蛮な令嬢
しょせんは偽物の公爵令嬢
そう言って敬遠する者もいれば、
王子を本当の意味で守り切った元婚約者
頼りになる護衛
素敵なお姉様
と高い評価と共にエリザベスを慕う者も多くいた。
公爵令嬢らしく取り繕うのをやめ、地を出してのびのびと暮らすエリザベスは気の合う友人もできた。金で味方に引き込んだ者は、何人かは金はなくとも情報交換で良好な関係を続けられたが、金の切れ目が縁の切れ目となった者も少なくなかった。
昼休みになるとエイベルの方からエリザベスに会いに来たが、王子より友人を選んで満足していたのはほんの一週間だけだった。
王太子候補から外れようとも王子妃の座は魅力的なものらしく、たくましい令嬢方は家の命運をかけ、婚約者がいなくなった王子に狙いをつけた。新たにエイベルの護衛についたヨハンは令嬢の反撃を恐れることはなかったが、うまくあしらうこともできず、しばしばトラブルを起こし口論が絶えなかった。
護衛と令嬢のもめごとを諫める王子の図。
見るに見かねたエリザベスは、週に一回希望する者を招いて王子を囲むお茶会を主催し、それ以外の場では王子に静かな学生生活を保障するよう「お願い」した。この状況に手をこまねいていた学校側も後援したことで、誰もがこの「お願い」を聞かない訳にはいかなかった。
お茶会での物品検査はヨハンに任せた。食べ物の持ち込みは事前申告制にし、王城の担当者のチェックを受けたうえで参加者全員分を用意することでOKとしたが、王子の気を引くだけでなく、菓子業を営む者は家の菓子を売り込み、グルメ自慢したい者は入手困難な菓子や果物を持ち込んでみんなにふるまった。そのうち王子より菓子を楽しみに参加する者も出てきた。
ロザリーと出会う前に戻ってしまった、冷静で多くを語らない王子エイベル。
しかし本当はロザリーに向けていたような熱い想いを内に秘めているはず。それがいつか自分に向けられる日が来るのではないと信じ、令嬢達はあの手この手でエイベルの気を引こうとしたが、エイベルはどんな誘いにも貢ぎ物にも興味を持つことはなかった。
エイベルは令嬢が話しかけてくるときちんと応じるが、終わればちらっと目線を動かし、その先にはエリザベスがいた。エリザベスが男子学生と仲良くしているとその会話に混ざり、会話を楽しんでいるようでいながら牽制しているようにも見える。
エリザベスの特技(?)、学校の某教師のものまねシリーズが始まると、集まった学生達はもちろん、エイベルまでもこらえきれずに吹き出していた。エイベルの笑顔を生み出せるのはエリザベスだけだった。
そんな様子を見てもなお悪あがきする者もいたが、かつての婚約者決定と同じく賢明な者ほど早々に見切りをつけ、堅実な
このお茶会は王城関係者も手伝いに来ていたので、王子目当てで参加し、素敵な護衛、優秀な従者との思わぬ出会いを果たした者もいた。恋愛だけではなく、参加者同士の交流もまた回を重ねるごとに盛んになった。
エリザベス主催のお茶会は王子との交流の場として身分や男女を問わず様々な学生が参加するようになった。途中からブライアンも参加するようになり、エリザベスやエイベルが卒業した後も引き継がれた。
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