今を生きる。

@_west_

今を生きる。

 「神様、どうか──。」

 余命一ヶ月だと知らされた僕は、深夜の病院から逃げ出した。怖かった。フラフラと彷徨って歩き疲れた頃、僕は小さな神社にたどり着いた。投げるお金もなかった僕は、ただひたすらに手を合わせた。

「神様、僕は死にたくないです。どうか、どうか……。」

 神を信じたことなんて、一度もなかった。それでも、何度も、何度でも願った。まだ生きたい──。


 気がつくと、僕は朝日に照らされていた。そこは病院のすぐ近くにある神社だった。蝉の鳴き声や小鳥の囀りが聞こえてくる。いつの間にか、気持ちは落ち着いていて、そろそろ戻ろうかと、僕は空を見上げた。

「キキィィーッ」

 凄まじいブレーキ音とともに、僕は大きく跳ね飛ばされた。全身に痛みが走る。

 ──やっぱり神様なんていなかったんだ……

 僕は暗闇に包まれていくように、意識が遠のいていくのを感じた。


 気がつくとそこは、病院のとある一室だった。目の前には、涙を浮かべて喜ぶ母の顔があった。

 ──よかった、生きてたんだ……!

「元気な男の子ですよ〜」

 安心していたのも束の間、突然のその一言で、頭が真っ白になった。


 それからのこと、一年、また一年と、あっという間に月日が経った。数年を過ごしているうちに、僕は同じ道を辿っていることに気がついた。これから起きることが全て読めた。僕はあの頃の失敗をやり直し、やりたいことも思いっきりやった。しかし、僕はまた同じ病気にかかり、同じ日に余命が宣告された。

 ──まだ終われない!

 考えるより先に、神社へと歩き出していた。


「元気な男の子ですよ〜」

 同じ言葉が聞こえてきて、僕は安堵した。これから死ぬとわかっていながらも、同じ道を歩いた。少し怖かったが、思った通り、死んでもやり直せることがわかった。


 ──どうせやり直せるのだから

 僕は、好き勝手に生死を繰り返した。四回、五回と人生を歩んだ。もちろん、どんな人生を歩んでも、最期が変わることはなく、当たり前のように余命が告げられた。


 「もう七回目かぁ。」

 深夜三時頃。病院から抜け出そうと、ベッドから起き上がった時、隣から声がした。

「どこいくの……?」

 その子は、いつも隣で寝たきりだった。

「ごめん、起こしちゃった?」

「七回目ってなに……?」

 僕は黙り込んでしまった。少し迷ったが、正直に話してみることにした。僕は今までにあったことを全部話した。すると彼は少し寂しげに、楽しそうね、と呟いた。

「一緒に行かない?」

 思わず口にしてしまった。彼は微笑んで、首を横に振った。

「今を生きたいから……。」

 僕ははっとした。


 蝉の鳴き声や小鳥の囀りが聞こえてくる。

──死があるからこそ、生きる意味が生まれるということ。

 僕は彼に気づかされた。

「神様、どうか……、どうか、もう何もしないでください……!」

 神様は、僕に失敗するチャンスをくれた。

そして──なぜ、どんな人生を歩んでも、最期は変わらなかったのか。

 きっと神様は、途切れた人生の続きをまた始められるようにしてくれていたんだ。余命一ヶ月、残りの人生を本気で生きてみようと思う。僕は自然と笑っていた。見上げる空は、青かった。

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