第6話 コストコ
俺はついにコストコに来た。
以前から一度は行ってみたいと思っていた場所だ。
広大な駐車場に車を止めようとしたその時——違和感。
警備員がピエロのメイクをしている。
「……何かイベントか?」
そう思ったが、彼はごく普通に業務をしている様子だった。
いや、普通じゃない。警備棒の代わりにマジックステッキを持ち、車を誘導するたびに白いハトを出すのだ。
「はいー!こちらどうぞー!」
バサバサバサ!
ハトが飛び出し、隣の車のフロントガラスにベチャッ。運転手は慌ててワイパーを動かすが、今度は別の車の中に入り込む。
駐車場は大混乱。
後ろの車からはクラクションの嵐。
だがピエロ警備員はまったく動じない。
「そんなクラクションごときで、この私が動じるわけないだろう!」
ステッキを振ると、またハト。
そしてまたハト。
永遠にハト。
俺は思った。
「いやもう車の誘導せぇ!鳩カーニバルちゃうねん!」
それでもコストコに入りたい客たちは、ただただ鳩を避けながら必死に駐車するしかなかった。
やっとの思いで駐車場を抜け、俺はコストコの自動ドアをくぐった。
すると——俺は息を呑んだ。
店員が全員チャッキー人形。
赤い髪、縫い目の顔、オーバーオール。
ただ、制服のベストだけはきちんと着ている。
「いらっしゃいませ〜コストコカードお持ちですか〜?」
「試食いかがですか〜?」
声は普通に人間。
けど見た目は完全にチャッキー。
試食コーナーを見ると、チャッキーがフライパンを振りながらソーセージを焼いていた。
「お客さま!アツアツでーす!」
いや、アツアツなのはお前の顔やろ!縫い目焦げるぞ!
レジに並べば、レジ打ちのチャッキーが無言で俺を凝視してくる。
「ピッ……ピッ……」
カートの商品を通すたびに、俺の心臓も変なリズムで跳ねる。
極めつけはフードコート。
チャッキーたちがホットドッグを作り、ピザを切り、ソーダを補充している。
笑顔は一切なし。全員同じ表情でただ黙々と働く。
……普通に回ってるのが逆に怖い。
俺は思った。
「いや人件費どうなっとんねん!全員チャッキーって誰が雇用契約してんねん!」
チャッキー店員たちに囲まれながらも、なんとか買い物を終えた俺は、フードコート横のエスカレーターへと向かった。
すると——信じられない光景が目に飛び込んできた。
黒人男性が、なぜかボブスレーに乗ってエスカレーターを滑り降りていたのだ。
「フゥゥゥーーー!オリンピック・スタイル!!」
その声が館内に響き渡る。
チャッキー店員たちも特に驚くことなく、普通に商品を補充している。
俺は思わず叫んだ。
「いやここコストコやぞ!冬季五輪ちゃうねん!」
観客でもないお客さん達が拍手している。
「すげぇ、プロやな」「金メダル級や!」
子供が真似してカートに乗り、後ろから兄弟が押し始める。
「やめとけやめとけ!それ事故るから!」
だが黒人男性はエスカレーターを滑りきり、最後に決めポーズ。
「イエーーース!ナイス・コストコ!」
そして、どこからともなく現れたDJ車掌がマイクを握り、実況を始める。
「ただいまコストコエスカレーター!異次元のボブスレー!観客総立ちィーー!」
俺は頭を抱えた。
「いや車掌、ここでまでアゲんな!運転室戻れや!」
俺は試食コーナーにやってきた。
コストコといえば、試食天国。肉もピザもケーキも味見し放題。
だが、そこにいたのは 例の10人のスタイリスト だった。
「うまっ!このウインナー最高!」
「いやいや、このピザのチーズ、トリートメントに使えそうやわ!」
「このドリンク、シャンプー後のお客さんに出したいっすね〜」
おいおい……試食を美容院の材料にすな。
さらにスタイリストAは、試食用のピザをハサミでカット。
スタイリストBはドライヤーで肉を温め始める。
スタイリストCはシャンプーを野菜にかけて「これマリアージュっす!」とか言ってる。
「いや食うな!味おかしなるやろ!」
極めつけはスタイリストIとJ。
二人同時にコーヒー片手に、試食スタッフへ話しかける。
「お姉さん肩こってません?ちょっと切りましょうか?」
「いや試食の人に施術すな!仕事中やぞ!」
チャッキー店員もさすがに止めに入ろうとするが、なぜか逆にカットされて整髪されている。
「はい、チャッキーさんもイケメンになりましたね〜」
俺は頭を抱えた。
「いやいやいや、もう誰が買い物しとんねん!」
俺は巨大肉コーナーに足を踏み入れた。
その目玉商品は——マンモス。
「え、マンモス!?生きてるやつちゃうやろな?」
陳列されているのは巨大冷凍塊。
肉の大きさに圧倒され、思わず立ち止まる俺。
その周りでは、もちろん 10人のスタイリスト が試食ならぬ“試切り”をしていた。
スタイリストA「この肩ロース、シャンプー後の手触りみたいな柔らかさですね!」
スタイリストB「うわ、ここはドライヤーで焼き入れたらもっと香ばしくなるかも!」
スタイリストC「ハサミでカットしてお皿に盛ると映えますね〜」
いや、肉ちゃうねん!美容材料ちゃうねん!
さらにチャッキー店員も登場。
「お客さま、こちらのマンモス肉、いかがですか?」
彼の無表情な声が館内に響く。
そして黒人ボブスレーも滑り込んでくる。
「フゥー!マンモス試食レース始めるぜ!」
カートに乗って滑りながら、肉を次々と掴んでいく。
俺は思った。
「いや待て、ここコストコやぞ!?何が本業やねん!試食かレースか!」
俺がマンモス肉の前で頭を抱えていると、コストコの奥からエレベーターの扉が開いた。
すると——
中から壮大なジュラシックワールドのオーケストラ演奏が響き渡る!
ヴァイオリン、トランペット、ティンパニが館内を包む。
スタイリストたちは試食どころじゃなく、演奏に手を止めて聴き入っている。
黒人ボブスレーも一旦滑りを止め、天井を見上げて感動の声。
「フゥー!コストコでこんな体験ある!?ナイス!」
チャッキー店員たちは無表情のまま、演奏のリズムに合わせて商品を補充。
マンモス肉の上でピザを持ったスタイリストAが、なぜか軽くステップを踏み出す。
俺は思った。
「いや、全員落ち着けや!ここ肉売り場やぞ!演奏会ちゃうわ!」
するとタイヤ役がカートを押して現れる。
「車どこやろ?」
ここはコストコやぞ!駐車場やったらいっぱいあるやろ
館内は、マンモス肉、ボブスレー、チャッキー店員、スタイリスト、タイヤ役、そしてジュラシックワールドのオーケストラ演奏——
まさに異次元コストコカオスと化していた。
しかし、これは当たり前の日常である。
だから誰も驚かないし、俺は平然としていなければならないのだ。
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