第5話 音楽だけのジュラシックワールド

俺は前から気になっていた映画「ジュラシック・ワールド」を見に映画館へやってきた。

「よっしゃ今日はポップコーン片手に恐竜に会うぞ」


売店に向かうと——。


綿菓子、梅昆布茶、ようかん、金平糖、おでん。


「なんでやねん!映画館で綿菓子て!ようかんて!おでん匂うやろ!」


仕方なく梅昆布茶と金平糖を買い、席に着く。

「まぁこれも思い出や……」


ジュラシック・ワールド上映5分前。

場内が暗転し、幕が上がる。


——いきなり壮大なオーケストラ演奏。

ドーン、ジャジャーン!

観客たちは一斉に立ち上がり、スタンディングオベーション。


「え、ちょ、まだ恐竜出てへんやろ」


そのまま延々と演奏。

指揮者は汗だく、演奏者たちは命を削るようにバイオリンを震わせている。


演奏が終わると深い余韻……そして再びオーケストラ。

観客はまた総立ちで拍手喝采。


そして幕が下りる。


「……え?」


スクリーンに浮かぶ文字。


『次回予告 本編』


「いや予告で終わるな!恐竜どこや!」


俺は梅昆布茶をすすりながら、ひとりツッコミを入れるしかなかった。


ロビーの混沌


放心状態でロビーへ出ると、そこには——


チャッキー人形がポップコーンを抱えて立っていた。


「えっ!? ポップコーン売ってたん!?俺、梅昆布茶と金平糖やぞ!」


その横では10人のスタイリストが輪になっておでんを食べている。

湯気をモクモク立てながら。


「どこで食ってんねん!ここ映画館のロビーやぞ!」


スタイリストA「いやーこの大根、猫に食べさせてもいいかな?」

スタイリストB「犬も喜ぶよー、これは!」

スタイリストC「俺の熱帯魚には少し合わないかなー」

スタイリストD「いや、ナマズにはちょうどええかもしれん」


俺「ここお土産屋ちゃうぞ!ペットフードで買ってこい!」



E、F、G、H、I、Jの6人は、なぜか手にそれぞれ道具を持っていた。


スタイリストE「はいっ!大スクリーン映すから、この鏡持って!」

スタイリストF「ドライヤーで爆風!映画館の音響とコラボ!」

スタイリストG「シャンプーはこぼしたらすぐ泡立ちますよ!」

スタイリストH「トリートメントはツヤ出し用!」

スタイリストI「ハサミはカット担当!」

スタイリストJ「お客さん、コーヒーどうですか?」


「いやここ映画館やぞ!どこで営業してんねん!映画観終わって泡まみれとか意味わからんやろ!」


すると自動ドアが開き、車掌がDJターンテーブルを抱えて登場。


「さっきのオーケストラ最高やったなぁ!電車でもやってもらおうかな!」


「いや運転集中しろって!音楽流すなハンドル握れ!」


その後ろから、汗だくのタイヤ役の男がフラフラと歩いてくる。


「……あれ?俺が回してた車、どこやろ?」


「いやここ映画館や!車あるわけないやろ!」



こうして映画館は、

ポップコーンを食べるチャッキー人形、

おでんを食べながら営業までしているスタイリスト軍団、

DJ気取りの車掌、

車を探すタイヤ役、


そして頭を抱える俺のツッコミで、カオスの坩堝と化していた——。

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