第4話 10人のスタイリスト
朝、俺は髪が伸びてきたので散髪に出かけることにした。
扉を開けると「いらっしゃいませー!」と声が響き、案内されるまま椅子に座る。
すると、なぜか10人のスタイリストが一斉に取り囲んだ。
前髪を切るのが1人。
右を整えるのが1人。
左を整えるのが1人。
後ろを2人がかりで切っている。
「いや、後ろそんなに広くないやろ…」と心の中でツッコミを入れる俺。
さらに、鏡をひたすら角度を変えて持ち続けるスタイリスト。
「ここ見えます? あ、こっちからも見ます?」と細かすぎる気配り。
ドライヤーを持ったまま、まだ乾かす段階でもないのに「スタンバイOKです」と待機するスタイリスト。
極めつけは、何度も「コーヒーいかがですか? ホットですか? アイスですか? カフェラテでも?」と聞いてくるスタイリスト。
「いや、まず髪切ろうや」と心の中でまたツッコミ。
さらにシャンプーをやりたそうにしてウズウズしているスタイリストもいる。
「今すぐ洗わせてください!」と言わんばかりの表情だ。
そして全員が一斉に話しかけてくる。
「今日はどこから来られたんですか?」
「肩こってますねー!」
「どんなシャンプー使ってるんです?」
「お兄さんモテそうですねー!」
「そういやこの前、犬買ったんですよ!」
「俺は猫ですよ!」
「いやいや、俺はハムスターです!」
「熱帯魚が一番癒されますよ!」
「この前、めっちゃでかいナマズ釣りましてね!」
会話はいつの間にかペット自慢大会に変わっていた。犬、猫、ハムスター、熱帯魚、そしてナマズ。
俺は鏡越しに自分を見つめながら、淡々と心の中で呟く。
「いやもう、そんな話どうでもええけど…。てかなんでスタイリスト10人もつくんや。1人でええやろ…」
カットが進むたびに10人の動きは無駄に連携され、最終的に完璧なグラデーションとセットが完成する。だが、主人公の頭の中にはひとつの疑問しか残らなかった。
「ここ、美容室というより漫才劇場やん…」
俺は散髪を終え、席から立ち上がる。
10人のスタイリストたちは犬や猫やハムスターを抱えながら「ありがとうございましたー!」と一列に並び、まるでアイドルグループのように笑顔で見送ってくる。
俺はため息をつきつつドアへ向かう。
「結局、誰が俺を切ったんやろな……」とぼやきながら。
外へ出る直前、ふと横目で店内をのぞくと——。
チャッキー人形が何食わぬ顔で美容室に入っていく。
受付に「お願いします」とでも言うかのように首をカクカクと振っている。
「……またおるんか」
俺は無言でツッコミを入れるしかなかった。
そして美容室を出ると、目の前にはタイヤ役の男が一人で歩いていた。
肩で息をしながら「次の車、どの車やろ……」とつぶやいている。
「いや、一人でタイヤ役とか無理やろ」とまたツッコミ。
そのすぐ後ろからは、DJターンテーブルを抱えた車掌が現れる。
サングラスをかけてノリノリで言った。
「いやー今日の電車、最高やったわー! お客さん全員アゲアゲ! あんな一体感ないで!」
俺は思わず振り返って、冷ややかに心で呟く。
「いや、車掌……まず運転に集中せえよ」
こうしてまた、俺の一日は淡々とシュールに過ぎていくのだった。
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