第2話 カラオケ電車
朝。
目覚ましが鳴る前に自然と目が覚める。窓から差し込む光は柔らかく、今日は少し肌寒い。布団を蹴飛ばし、着替える。今日は…そう、カラオケの日だ。誰にも邪魔されず、思いっきり歌える日。胸の奥で小さな期待が膨らむ。
家を出て歩きながら空気を吸い込む。今日もいい日になりそうだ…と思った瞬間、カラオケ屋の前で違和感が胸に刺さった。看板には「カラオケ」とあるのに、そこは電車の駅のホームだった。
「え…なんで?」
頭の中でツッコミを入れる。周りの人々は普通に歩き、改札を通る。駅の向こうには電車が滑り込む音…いや、カラオケ屋に来たはずだろう?体は素直で、つい電車に乗ってみる。
乗り込むと座席にはマイクが置かれている。そして全員、座席に座りながらマイクを握り歌っている。サラリーマン、女子高生、子供、お婆さん、犬まで…普通に歌っている。いや、犬まで!?頭の中でツッコミを入れるが、声は出さず淡々と座席に腰を下ろす。
まず目の前のサラリーマン。座席の上に立ち、力強く熱唱。いや、座れよ!立つな、歌うな!次の瞬間、女子高生のグループも座席の上で息を合わせ熱唱。いや、そことなるわ!お婆さんとおじいさんはマイクとタンバリンで息の合った芸当を披露。長年の経験による匠のパフォーマンスだ。いや、上手すぎやろ…しかも電車やぞ…。
通路では子供が駆け回りながら「線路は続くよ」を歌いまくる。いや、通路で走るな!靴の音で床が鳴ってるぞ!窓の外を見ると、街並みはいつも通りだが、屋上や街灯の上にチャッキー人形が立っている。走る車の屋根の上にもチャッキーが揺れている。いや、何でそこまでいるねん…。
車掌室をのぞくと、運転席にはDJターンテーブル。車掌はターンテーブルを回しながらマイクでアナウンス+マイクパフォーマンス。いや、運転しながらDJすな!電車の速度、誰が見てんねん!
座席を一つずつ確認すると、全席にカラオケ機材が備えられている。マイク、スピーカー、操作パネル…どの席でも歌える仕様だ。つまり、電車全体が移動するカラオケルーム。走る音も「ガタンゴトン」ではなく、めちゃくちゃリズミカルに車輪が回る。ビートに合わせて窓ガラスが軽く振動し、歌声やタンバリン、DJの音と混ざり、まるで車両全体が音楽に乗って走っているかのようだ。いや、電車の音まで演出かい!
さらに外国人観光客が乗り込んでくる。全員でビートボックスを開始。プロ顔負けの技術で、車内のリズムを支配する。俺は頭の中で「いや、プロ顔負けやん…!」と突っ込みを入れ、淡々と座席で観察。彼らの足踏みや手拍子も完璧で、まるで車内が巨大な音楽ステージになっている。
電車内広告を見れば、通常の宣伝ではなくカラオケの歌詞が書かれている。駅案内表も駅名ではなく、アーティスト名が並んでいる。「次GLAYだってさー」…しかし、歌わないといけない。いや、さすがに歌えやんやん!頭の中で突っ込みながら、座席のマイクに手をかける。
乗客は誰も気にせず、自由に歌い続ける。サラリーマンは立ったままサビを熱唱し、女子高生は肩を組みながらデュエット。掛け合いは成立しているが、視線は交わらない。座席のチャッキーも小さく口を動かして歌っているように見える。いや、揺れるなや、口動かすなや。
通路を駆け抜ける子供たち、タンバリンを打ち鳴らす老夫婦、DJ車掌、ビートボックス外国人…全員が自由に表現するカオス。頭の中で突っ込みを入れる俺。声は出さず、体も動かさず、淡々と観察。
時間が経ち、目的の駅に着く。降りる瞬間も、電車内は熱唱の渦のまま。立つサラリーマン、座席の上でデュエットする女子高生、タンバリンを叩く老夫婦、通路を走る子供、DJ車掌…全員が歌い続けている。
淡々と電車を降り、日常の街に戻る。歩道を歩く人々は普通に歩き、犬は飼い主と散歩している。頭の中で最後のツッコミを入れる。「いや、さっきの電車、なんやったんや…」
だが表情は普通のまま。思いっきり歌いたい気持ちはあるが、この世界では何事もなかったかのように振る舞うのが安全だ。今日も、常識のない世界は変わらず続いている。俺は淡々と歩き、日常に戻る。頭の中でツッコミを繰り返しつつ、体は普通の人間として生活を続ける。これが、俺に与えられたシュールで淡々とした日常なのだ。
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