異世界

チャッキー

第1話 チャッキー公園



朝。

目覚ましが鳴る前に、自然と目が覚める。いつも通りのランニングの日だ。まだ少し肌寒い空気の中、窓を開けると風が顔に当たる。鳥の声が聞こえる。今日は…普通に走るだけだと思っていた。


靴を履き、家を出る。マンションの階段を下り、近所の道を通り、公園への道を歩く。道行く人々は普通だ。サラリーマンが急ぎ足で駅へ、子供たちがランドセルを揺らしながら登校する。だが、ふと、公園の入り口に差し掛かると、違和感が胸にざわついた。


公園の芝生を横切る人々――いや、正確には、人々の背中になにかがある。目を凝らすと、全員、チャッキー人形を背負っている。

休むお婆さん、犬と散歩するおじさん、サラリーマン、女子高生、子供…全員。しかも皆、普通に会話している。犬までチャッキーを背負っている。いやいや、犬までかよ。心の中でツッコミを入れる。


ベンチに座るお婆さんのチャッキーは、どう見てもサングラスをかけている。なぜだ。子供のチャッキーは小さなアイスを舐めている。いやいや、背負う意味がわからん。サラリーマンのチャッキーはカバンを持っている。いや、誰のカバンやねん。


俺はランニングを続ける。息を整えながら、公園を歩く。目の前で、二人の女子高生が笑いながらチャッキーを背負って会話している。背中のチャッキーは微妙に揺れている。話題は普通だ。学校の課題のこと、昨日のテレビのこと。背負っているチャッキーは、一言も発していない。いや、なんでやねん。


小道を曲がると、休憩所のベンチでおじいさんが読書をしている。その背中にもチャッキー。チャッキーはページをめくる手を持っていないのに、まるで一緒に読んでいるかのようだ。頭の中で「読めるんかい!」と突っ込む。


芝生の広場では、犬の散歩をする少年の後ろ姿。背中のチャッキーが尻尾を振る犬の動きに合わせて揺れている。いやいや、犬とシンクロしてるんかい。さらに奥を見ると、ジョギング中のサラリーマンもチャッキーを背負っている。リズムに合わせてチャッキーも小さく揺れる。いやいや、揺れる意味あるんかい。


水飲み場では、チャッキーを背負ったお婆さんが水を飲んでいる。チャッキーは横でじっと見ている。いや、見んでええわ。隣の子供は砂場で遊んでいるが、背中のチャッキーもスコップを握って砂を掘っている。いや、砂場まで侵略すんなや。


ベンチの向こうには、ピクニックを楽しむ家族。サンドイッチを食べる子供の背中にチャッキー、母親の背中にもチャッキー、父親の背中にもチャッキー。全員が普通に談笑している。見ている俺の方が異常に思える。いやいや、会話は普通やのに、背中はカオスやんけ。


太陽が少しずつ高くなる。ランニングのペースを少し上げる。足音に合わせてチャッキーが揺れる。鳥の声、風の匂い、芝生の感触…すべて普通の朝の公園なのに、背中のチャッキーが狂気を混ぜ込む。


ふと、視線を上げると、滑り台の上でチャッキーを背負った子供たちが滑っている。滑り台の先でチャッキーが小さくジャンプして、地面に着地する。いやいや、飛ぶなや。転げるなや。


俺は呼吸を整えながら淡々と走り続ける。頭の中でツッコミは止まらない。いや、あれも背負ってる、これも背負ってる。いや、犬まで背負ってる。いやいや、芝生もチャッキーだらけやんけ。


でも、声は出さない。笑いも、驚きも、困惑も表に出さない。淡々と、いつも通りに走る。普通の人間として、淡々と。目の前の異常さに順応するかのように、淡々と。


時計を見ると、もうそろそろ帰る時間だ。家路につくため、俺は公園の出口に向かう。後ろを振り返らず、淡々と歩く。芝生の上でチャッキーたちは揺れ、犬も走り、子供たちは遊び、サラリーマンはカバンを持って歩く。だが、俺は淡々と歩く。


今日も、この常識のない世界は続いているのだ。

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