第12話 STILL LOVE HER

 一九九六年、僕は二十一歳になった。


 世の中で携帯電話が普及していった。僕もドコモのノキアという携帯電話を契約した。便利にはなったけれど、会社からの束縛も強くなった。二日に一回は上司と遅い晩御飯を食べた。ラーメンとかお好み焼きをよく奢ってもらった。但し、長い説教つきだった。そして次の日に布団が売れなかったら「お前! 俺と飯食ってゼロか! 失礼な奴だな!」と滅茶苦茶怒られるのだった。


 食べたくない説教付きの夕食が終わると毎回深夜十二時を過ぎていた。それから帰宅して風呂に入り、一息つくと深夜二時。もう明日になったけれど、寝ると明日がもっと早く来てしまう。明日になるのが嫌で眠るのが怖かった。そしてどんどん寝不足になっていった。


 大分に来たときも直子と離れてしまって、近づけば遠ざかるアキレスと亀のようだと思った。本当に僕はいつになったら向こう岸まで泳いで渡れるのか、いつか泳ぎ疲れて海に沈んでしまうのではないかと思った。そのとき直子は悲しんでくれるかな? と妄想した。


 もう大分にいる意味はなかったが、自分がどこに行けばいいのかわからなかった。直子も今は実家から職場に通勤しているが、いずれ彼と一緒に生活を始めるだろう。それが熊本なのか博多なのか東京なのか青森なのかもわからなかった。そこへも俺は追いかけるのか? 屋根裏部屋にでも住ませてくれないかな? まさか、そこまでは邪魔できない。


 僕は惰性で大分で生きていた。臼杵さんや岩尾さんは僕をよく遊びに誘ってくれた。もう、お酒も解禁した。禁酒なんてくだらない禁忌をよくも張ったものだった。しかし、僕はアルコールに滅法弱くなっていた。酔うことはなかったが、量がまったく飲めなかった。ビールは二杯でお腹がいっぱいになった。アルコールが体内で分解されていないのがわかった。それで結局飲酒の機会もそんなには増えなかった。


 あまり先のことは考えないようにして、ずるずると生きていた。たまに現実を思い知り、絶望もした。頭の中に思考のスクリーンがあって、「直子との未来」というカテゴリが左上の方の定位置でふわふわと漂っていた。ちらりと見ると、そのカテゴリがふっと消えたり、どこか遠くに移動したりしてなかなか直視できないのだ。それでも冷静になって、勇気を出して見てみると「直子との未来」のカテゴリはどろどろに腐っていた。もう、直子と再び付き合えるルートは完全に残されていなかった。それでも、腐っていても残っているのは何か意味があるのかなと思った。


 直子への電話も減っていったので直子のほうから心配して電話をくれるようになった。でも電話に出る気力がなかったり、話していてもあまりに僕の声に覇気がなかったりで、余計に直子を心配させることになった。


 五日間のお盆休みも熊本の実家に帰ることもなく、アパートの自室で過ごした。僕の姉や母親からも心配してお盆くらいは帰って来いと電話があった。でも、なにもする気がなかった。エアコンもない自室だったけれど、暑さも感じなかった。風呂に三日入っていなかったし、生ごみも五週間分をため込んでいた。そしてその生ごみから異臭が発生していた。ごみ袋の中がなんか動いているように見えたのでよく見ると、親指くらいの大きさの蛆虫が何匹も蠢いていた。


「お前は元気だな」と呟いた。


 このまま蝿に成長するまで育ててみようか。名前をつけてみるのもいいかもしれない。そんなことを考えていると、アパートの廊下からこつこつと誰かの足音が聞こえた。そして僕の部屋のチャイムが鳴った。どうせNHKかガスの集金だろうと思って無視した。すえた匂いの布団に戻って仰向けになり、天井を見つめた。何度もチャイムが鳴って、ドアをこんこんとノックする音が聞こえた。やけにしつこいなと思っていると、


「誠? いるんでしょ?」


 と、ドア越しに直子の声が聞こえた。僕はいつかの野獣のように飛び起きてドアを開けた。直子が立っていた。髪を後ろで束ねて、真っ白なポロシャツに脛までのデニムを履いた直子がいた。前髪は汗で額に張り付いていた。


 急に開けられたドアに直子は一瞬驚いてみせたが、すぐに怒った顔になって「いるなら早く開けてよ! こんな暑い日に直射日光の中を待たせるなんて!」と言った。


「直子……どうして……」


「どうしたもこうしたもないわよ。あなたのことが心配で駆け付けたのよ。電話も出ないし、たまに話しても元気がないし、誠が元気じゃないと誰が私を慰めるのよ! とにかく、部屋に入れてよ」


直子は腰に手を当てて僕を見据えて言った。


「あ、ごめん」と僕が言い終わる前に直子は靴を脱いで部屋に上がった。


「臭い! なにこの匂い! うわ!」


 直子は薄暗いキッチンの脇の詰まれたごみ袋を見て悲鳴をあげた。そして僕の顔をじっと見つめた。今までで見たことのないような不安げな表情だった。


「ねぇ、誠、あなた大丈夫? あの几帳面な誠がこんなにゴミを溜めるなんて……」


 直子はそう言って僕の顔に手を伸ばした。


「無精ひげも生えてる……髪も脂ぎってるし、目も死んでるみたい……」


 直子は僕の頬に手を当てたまま言った。


「大丈夫では……ないだろうな。なんか気力がないんだ。でも自分でもどうしようもないんだ」


「ちゃんと食べてる?」



「何を食べても味がしないからあまり食べてない」


「眠れている?」


「あまり眠れていない。眠いとは感じるんだけど」


「仕事はしんどい?」


「仕事は……しんどいね。訪問販売の仕事は本当に精神的にきついね」


「鬱っぽいっていうか、鬱ね」


 直子はそう言うと僕に抱きついた。


「あ、風呂にも入ってないから汚いよ……」


 僕がそう言うと直子は泣いた。僕のよれよれのTシャツの背中を握りしめた。僕は直子の少し汗ばんだ髪の香りを嗅いだ。


「ごめんね……こんなになるまで誠を放っておいて。ごめんね……私、何もできなくてごめんね」


 直子はとても静かな声で言った。


「直子のせいじゃないよ。直子は少しも悪くない。これは俺だけの問題なんだ。逆に君を悲しませてしまって、すまない」


「ばか! 謝らないで! それも私の問題なの。私は私で誠を不幸にしたくないの。でなきゃ彼に嘘ついてまで大分までこないわよ。そんなこともわからないの?」


「わからない。俺はもうどうしたらいいのかわからないよ」


「なら教えてあげる。とにかく今すぐにお風呂に入りなさい。なんなら一緒に入る。そして髪と身体を洗い合いっこして、二人で別府の温泉に行くの」


「温泉?」


「そう温泉。せっかく大分まで来たんだから温泉のひとつやふたつ浸からなきゃ」


「温泉に行く前にお風呂に入るの?」


「あなた今の体臭で温泉に行くなんてテロ行為よ。まずは身を清めてから。私もいっぱい汗かいたし」


「それで温泉に行ってどうするの?」


「温泉に浸かって身体をほぐして疲れを癒すの。湯気もちゃんと吸うのよ。肺まで温泉の成分で満たすの。そして温泉を出たらソフトクリームを二人で仲良くベンチに並んで座って食べるの。それからやせうまなり、とり天なり、団子汁なり、関アジとかの大分の名物を一緒に食べるの。そして誠の部屋に帰ってから掃除をして今夜は一緒に眠るの。私がずっとそばにいるからきっと眠れるはずよ」


「そんな夢みたいなこと、なんだか信じられないよ」


 直子は僕の眼をじっと見つめた。


「目の奥が少し光って見える。少しは元気になった? 大丈夫よ。私がいるから」


 そういうと直子は汗ばんだポロシャツを脱いだ。


 直子と二人でシャワーを浴び、お互いの髪と身体を洗った。僕はそれだけで身体にまとわりついた不幸のシミが少し落ちたような気がした。直子は持ってきていた大きなバックから着替えをとりだして、真っ白で涼しげなワンピースに着替えた。光の加減で脚線が透けて見えたのでどきどきした。僕も短パンと白いTシャツに着替えて、少しさっぱりした気分になった。


 路駐していた直子のマーチを僕の駐車場に停めて、FTOに乗って別府まで出かけた。鉄輪温泉に浸かり、直子の言うとおりに湯気まで深呼吸した。硫黄の香りが気分を高揚させた。また少し元気ゲージが増えた気がした。温泉あがりの直子の火照った顔がより美しく見えた。


 売店でソフトクリームを買って休憩所のベンチに二人で座って食べた。身体の火照りと心の中のもやもやが少し晴れた。


「ずっと別府の温泉にも浸かりたかったの。流石の名湯よね。お肌がすべすべ。でも芦北の地元の温泉も同じくらい名湯よ」


 ソフトクリームのコーンをかしゅかしゅと齧りながら直子が言った。


「大分に来て初めて温泉に入ったよ。もっと早く温泉の良さを知っておけばよかった」


「今知ったんだから、これからたくさん入ればいいじゃない。別府だけじゃなくて耶馬渓とか湯布院もあるしね。いいなぁ」


「そうだね」


 温泉を出て適当な居酒屋で少し早い夕食を食べた。関アジと関サバの刺身、とり天も食べた。まだ味覚は戻っていなかった。直子は一杯だけ生ビールを飲んだ。夕食が終わると僕のアパートに戻り、換気をして部屋を片付けた。そしてFTOをコインパーキングに駐車するついでで、悪いことだけど生ごみの袋を海に捨てた。せめてあの親指大の蛆虫が魚の餌になればいいなと思った。


 エアコンがないので窓を開けて扇風機を回した。夜になって気温が下がったが、こんな暑い部屋で窓を閉め切って過ごしていたなんて信じられなかった。そのことに気付いただけでも僕はかなり元気ゲージが回復したなと思った。もうHPがオレンジ色ではなくなった。


 窓を開けているので我々は囁くように話した。


「よかった。瞳の奥の曇りが晴れてきたみたいね」


 シーツを交換したばかりの布団の上で、直子が僕の目を覗き込んで言った。


「うん、自分でもわかるよ。まだ芯は残っているけど自分の異常さがわかったよ」


「なら来た甲斐があった。あのね、前に誠が大阪から私のピンチのときに仕事もほっぽり出して来てくれたことがあったでしょう? あのときの恩返しがずっとしたかったの。でも公務員はお盆でも休めないからただの土日で悪いんだけど。だから明日の日曜日には帰らなきゃ」


「今日は土曜日だったんだ」


「そうよ。曜日感覚もなくなってたの? 本当に重症だったのね。ねぇ、誠、どうしたの? なんか落ち込んでいたの?」


 僕は直子の顔を見つめた。二十一歳の直子は幼さが薄くなってより大人の女性として美しく成長していた。すっぴんでも直子は美しかった。でも直子の外見はもう僕にとって重要ではなくなっていた。例え直子が醜くなっていても僕は直子のソウルそのものを求めていたので全く問題はなかった。直子の美しさは僕にとって副産物でしかなかった。


「ごめんね。心配かけてしまって。ただ、なんかね……思い知ったんだ」


「なにを?」


「いかに俺にとって直子が特別なのかってこと。本当に思い知ったよ。こんなに離れていても、直子に彼氏がいても、どうしようもないくらいにずっと直子のことが好きだってこと。それくらい俺にとってスペシャルな直子なのに、もうこの手に入らないんだもの」


「まだわかんないよ。これからの頑張り次第じゃないの?」


「いや、俺にはわかる。直子の彼氏との圧倒的な差がわかる。俺は彼氏ほど直子を幸せにはできないだろう。直子を不幸にさせるわけにはいかないんだ。なんか前にも言ったことがあったかな」


「じゃ、もう私のこと諦めるの?」


「それがそうでもないんだ」


「なにそれ?」


「俺の中で直子の存在は絶対にゼロにはならないんだ。それだけははっきりしている。俺たちには結婚という未来はないけど、ずっと繋がっている気がするんだ。不倫とか浮気とは違う何かで……なんか明確には説明できないんだけど」


「……なんでそんなに私のことを想ってくれるくせにいつも近くにいないの? なんでいつも私を置いていくの? 誠はやっぱりあの船から降りていなかったのよ。私ね、今まで何度か今この瞬間に誠が車で私を攫いにきたら、喜んで一緒に逃げるのにって想像したことあるよ。そして二人で一生懸命働いて苦労して子どもを六人育てて、たくさんの孫に囲まれて、日焼けしたしわくちゃのおばあちゃんになることも想像した。

 それでも誠は直子が一番綺麗だよって言ってくれるの。お金とかそんな幸せよりも、そういう幸せを誠と築いてみたいっても想像したよ。でも、もうそんな時期も過ぎたの。老いてく親を間近で見ていると、心配させるようなことできないし、兄貴も体が弱いから将来が心配だし……でもまぁ、私もね、今の彼と結婚しちゃうとは思うのよ。

 でも、誠がいない生活なんて考えられない。どこかに誠の存在があるから今も生きていけてるの。どちらか一つの命を選らばなきゃならないとしたら、私は誠を選ぶよ。それくらい私にとっても誠はスペシャルな人なんだよ。それでね、そういう存在をソウルメイトっていうらしいよ」


「ソウルメイト……魂の仲間? あーでもソウルは感じるかも」


「ね、私も鳩尾に誠の存在を感じるし、後頭部から線が出ていてそれが誠と繋がっている気がするの。わたしにはわかるの」


「我々にはどんな未来が待っているんだろうね」


「何はともあれ、しっかり生きなくちゃ! 応援してるから! Dear dear」


「まだ憶えていてくれてたんだ」


「私が忘れるわけないじゃない! とにかく、今日は安らかに眠りましょう。でもその前に抱いてくれる?」


「もちろん」


二人で裸になって抱き合った。そして僕はいつものようにコンドームを装着しようとした。


「待って」と直子が言った。


「実は今日は極めて安全な日なの。本当にたまたま。温泉に入ったあと、念のために手帳見て計算したの。だから、一回そのままできてほしい……」


「でも、確率はゼロじゃないでしょ」と僕は答えた。


「それはそうだけど、一度誠とゼロ距離でひとつになっておきたいの。中で出さなきゃ大丈夫よ」


「じゃ、当然中には出さないけど、少しの時間だけひとつになろう」


「うん! 来て」と直子が言った。そのときの笑顔が菩薩のようで、僕は一瞬躊躇したほどだった。


 見つめ合ったまま、僕は直子の中に入った。お互いの胸のあたりから幸福感の強い、球体のエネルギーを感じた。それが重なりあい、ひとつになったとき、僕はまた別次元の一体感を感じた。全ての生命ともつながった気がした。嬉しさとも悲しさとも違う涙が溢れて止まらなかった。この感情は愛だ。僕は純粋な愛に包まれて、これは涅槃の一部に触れているのではないかと思った。


 性的興奮よりも生命としての使命感で、僕のペニスははちきれそうに膨張していた。根本に痛みを感じるほど勃起していた。今このチャンスに愛する直子に着床するべく、本能がフル回転で精液を製造していた。そして直子の膣内の粘膜からも、僕のペニスに浸食しようとしている意志を感じた。


 挿入後は動かさずにじっとしていたが、それでも絶頂が足音を立てて向かってきていた。僕は名残惜しさも感じつつ、素早くペニスを抜いた。その一瞬の刺激で僕は直子の身体の上に何度も射精した。一撃目は直子の頭の上を飛び越えていた。その一滴が直子の口に入った。それを舐めた直子が「あ」と言って体を硬直させて絶頂した。直子の臍に僕の精液が溜まりになって、すぐに横に溢れた。


「直子? 大丈夫?」と僕が言った。直子は口を数回ぱくぱくと動かしただけで、発声できないようだった。


「ごめん、もっと早くに抜くべきだった。中には出ていないと思うんだけど」


「いいの、どうでも、本当に……」直子はまだ意識が混濁していた。


「え? 本当に大丈夫?」


 僕は心配になった。すると直子が両腕を伸ばしてハグを求めてきた。僕は直子を優しく抱きしめた。すると直子は僕の左の耳たぶを思い切り噛んだ。激痛が走ったが、我慢した。しばらくすると直子が歯を緩めた。


「この痛みも覚えておいてね……私の胸の痛みはこんなものじゃないもの。ねぇ、すごく気持ちよかった。今まででいっちばん気持ちよかった。おしっこ出たかもしれない。さっきおしっこしてなかったら絶対にいっぱい漏らしていたと思う。

 やっと誠とひとつになって、なんだろう……細胞がね、何兆もの意識が私の中でいっぱいになってね、誠の精液をすごく欲しがったのがわかったの。それがね、安全日とか関係ないくらいの欲求でね、意識が誠のおちんちんの尿道から入って精液を引きずりだすような感覚もあったの……その間、私はあったかい温泉に浸かっているような気がした。長い時間よ。すごくない? 

 一瞬意識が戻ったと思ったら、目の前に泣いてる誠がいて、ぴゅーって精液が私の顔を飛び越えているのがスローモーションで見えたの。そのとき顔に落ちた一滴をぺろって舐めたら、一気に宇宙の外まで飛ばされた。天国じゃなくて宇宙の外殻よ。ごめんね、変なこと話しているね。なんかね、どんどんそのときの記憶が消えていっているから覚えているうちに話しておきたいの……世界のすべては誤差の範囲にも満たなくて……あ、もうだめ、消えていく……」


 そのまま直子は身体をだらりと弛緩して眠ってしまった。


 僕は直子の安らかな寝顔を見つめた。この先、この愛しい寝顔を眺めるのは僕ではなく、直子の彼氏に任せるしかなかった。どうか直子を幸せにしてあげてくださいと、心の中で祈った。


 そして僕にも久しぶりの睡魔が襲ってきた。今、直子がそばにいるのに眠ってしまうのがもったいなかったけれど、思考はそこで終わってしまった。


 朝、二人で同時に目が覚めた。直子は携帯電話の電源を切っていたようで、電源を入れると瀬戸さんからの留守番電話が二十件くらい入っていた。


「やば、なんかかんかんに怒ってる」


留守番電話の内容を確認して直子が言った。


「そりゃ怒るだろうね」


「ごめんね。帰らなきゃ。下手したら福岡からバイクをぶっ飛ばして実家までくるかもしれないから」


「じゃ、急がないと」


 直子は急いで服を着て軽く洗顔とハミガキをして荷物をまとめた。部屋を出る前に抱き合って長いキスをした。そして直子は僕の目を長い時間見つめた。


「うん、大丈夫そうね」


「うん、もう大丈夫。本当にありがとう。お蔭でなんとか生きていけるよ」


「ふーん、ねぇ、次はいつ私たちが会えるか誠には視える?」


「視えない。次はいつになるかは本当に視えない。ただ、いつかは必ず会えると思う。もしかしたらおじいちゃん、おばあちゃんになっているかもしれないけど」


「茶飲み友達でもいいかもね。縁側で日向ぼっこして誠とお茶を飲みたい。そのときは私が『茶ばくだい』って言うから、美味しいお茶を淹れてね」


「もちろん」


 そして直子はマーチを運転して芦北へ、もしくは瀬戸さんのもとに帰っていった。


 これが、二人の最後の逢瀬だった。

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