『三日間の幸福』 三秋縋
今回この本を手に取るのが、もう何度目なのかも分からない。それくらい繰り返し読み続けている作品は他にない。
※今回はネタバレありです。未読の方はご注意ください。
この本に出会ったのは高校生の頃でした。当時全く本を読まなかった自分は
「学校で読書タイムがあるから仕方ない。何か小説でも読もうか」
と浅い動機で今作を購入しました。この本を選んだのも、ただ書店で勧められていたから。それだけの理由だったと思います。
時間を潰すだけ。そう思い期待せず読み始めました。しかし冒頭から瞬く間にのめり込んでしまい、食い入るように読み進めていきました。朝に読み始めたが最後、一日中続きが気になり、授業中も読み続け、その後家で完結まで読んでしまい、大号泣しました(学校で読まなくて良かった)。
これが、自分が読書にハマるきっかけでした。
その後似たような(いわゆる感動系の)作品を沢山読んだけど、自分の中ではこの作品の王座は揺るぎませんでした。シンプルで読みやすく、何も考えず物語を追うだけでも感動できる。それでいて、深く読めば色々なことを考えさせてくれるきっかけにもなる。その感動は何度読んでも変わらず、毎回素晴らしい作品だと実感するばかりです。
この作品の好きなところはいくつもありますが、その中でも一つ、他と違うと思うのは「センスの良さ」です。
詳しい内容は割愛しますが、主人公は物語途中、自身の残り少ない寿命の使い道を考えます。色々な試行錯誤をして、思いつくのは「自販機巡り」。
主人公が好きだという自販機、そして(本当は少し違うけど)定点の写真を撮り続けること。それを合体させて、自販機の写真を撮るという行為に行き着く。そんな荒唐無稽な行為・自販機巡りを、主人公は残り僅かな寿命を使ってやろうと決める。
……どんなセンスだよ!!
思わずツッコミを入れたくもなります。何をどうすればそんな結論に行き着くのか。何を食べればそんな無意味で、けれどどこかエモーショナルでノスタルジックなアイデアが浮かぶのだろうか。普通なら「お世話になった人に感謝する」とか「ずっと食べたかったものを食べる」とか、そういう思考にならないでしょうか。「寿命が残り僅か」という条件から生み出されるアイデアは普通そういう方向性だろうと、少なくとも自分は思います。
……でも実際、身体も脳も至って健康で、残り時間だけが決まっている。そんな特殊な状況で人間が何をしたくなるかなんて分からないし、さっき挙げた「誰もがやりそうなこと」「ありきたりなこと」が誰にでも合てはまるわけではないのだとも理解できます。
……でもそこで「自販機が好き。自販機を巡って写真を撮ろう」なんてなるかな……。センス良すぎる……。
しかもそれが楽しそうで楽しそうで。主人公が心から好きなことをしているんだなというのが伝わってくる。うだるような暑い夏に、カブに乗って町を巡り、自販機を見つけたら写真に収める。それを繰り返す。
そんなよく分からない行為が、作中で本当に素敵に思えるんですよね……。
それ自体に意味がなくても、先が何にも繋がっていなくても、心から楽しめること。
そういう「純粋に好き」な行為って、「意味」とか「今後のため」とか生きていくうえで必要な(けれど余分な)マインドを取っ払って、突き詰めないと辿り着けないのかもしれない。
意味や意義に唾を吐くような、(世間的に見れば)無意味で無価値で、だけど自分の中の何かを満たせる行為。それを、寿命を売ってから紆余曲折あった主人公が見つけ出すのがとても好きなんです。
いつか自分もそういう行為を見つけたいな、と常々思います。
他にも好きな要素は無数にあるけど、やっぱり結末は外せないです。
残り3日となった命を、同じく3日しか生きられない恋人と共に過ごす。切なくも思えるけど、あの二人にとってはそれが最高の結末なんだろうなと読み返す度にしみじみ思うんです。
「たった3日だけなんてかわいそう」と言う人もいるかもしれない。それはとても理解できる。当然だけど、もっと時間があれば、あの二人はもっと幸せになれたかもしれない。けど、あの二人にとってはあれが最良の選択だったし、どこかで別の道を選んでいたら、多少長生きできたとしてもあれほど幸福にはなっていなかったと思う。けれど彼らの過ごした最期の3日間は「あったはずの数十年」の合計よりも幸福な3日間だったと思うし、それ以外の道を選ぶよりは絶対に良いものだ、最高のハッピーエンドだと自分は思う。
限りある時間の中で主人公は自分のやるべきことを成し遂げ、ヒロインは主人公の願いよりも、自分のやりたいことを選ぶ決断をした。その末に満足して死ぬ。理想の死に方だと思います。
また、この作品では「人生の価値について」が一つのテーマになっています。
冒頭で主人公についた額は一年につき一万円。しかし終盤、主人公の一ヶ月は(明確な金額は分からないが)とてつもない金額に増大する。その理由として、作中では絵の才能を開花させたことが中心に紹介されている。そのおかげで名声を手に入れられるから、と。けれど自分はそこが要点ではないと思うんです。
自分はあの価格上昇には主人公の幸福度の上昇、また、ヒロインを幸福にできるという点が大きく関わっているのではないかと考えています。
元々自身も幸せになれず、誰ひとり幸せにできなかった主人公(30円)が、作中を通して幸せになり、好きな人を幸せにできる。その点で評価が跳ね上がったのではないかと。誰か一人でも、他人を心から幸せにする。そして自分が心から幸せになるというのは想像より難しいことだと思うから。偉大なことを成し遂げなくてもいい。ただ、自分が幸せになること、そして愛する人、愛してくれる人を幸せにする。そっちの方が大事だと、最後に寿命を売る主人公から学ぶことができたのも、自分がこの作品を好きな理由の一つだと思う。
また、この作品は漫画化されており、そこには本編になかったおまけ短編が載っています。そこに登場する『寿命の値段は余生の値段。その価値は過去に左右されない』という言葉がたまらなく好きです。これまでがどんなに悲惨でも、人生の価値はこれからいくらでも上げることができるよという希望をくれる言葉です。
……まだまだ好きな要素はありますが、まとまりがなくなりそうなのでこの辺で抑えておきます。好きな作品について書く喜びと、上手く言語化できない歯がゆさを噛みしめながら。
書評 山奥一登 @yamaoku
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