第5話

突然のモモちゃんの行動でマネージャーは慌てまくり、オレらもそんな要求をしたつもりはなかったとひたすらに謝って、今回のイラストのデータは破棄すると約束した。


ついでに念写イラストを細かく破ってモモちゃんに手渡してから、話はお流れにしてもらう。


「いやはや、まさか世を照らす女神の所業とはああ言った体験なのですかな?」

「バカ言え、気まずくて店に行き辛いわ」

「ほほう、敷居が高くなりましたかな?私はさらにモモちゃんへの愛着が湧きましたぞ」

「ぬかせ!オマエほど厚顔無知じゃないわ」


コイルはゲラゲラ笑いながら、帰って行った。


コイルが余裕なのは破ったイラストは複製だからだ、駅前の喫茶店で準備している間に、コピーを念写して準備していただけで、種明かしはなんて事はないな。


しかし、透視念写の件がひょんな事から公にならずに済んだのは、よかったと考えるべきかもしれない。


写真の真贋を判定した方法も気になるしな。


今日は電車を乗り継いで、拝島に借りている自宅の借家に着くと、作業中だった[戦闘記録]の編集作業を再開しながら、ダンジョン配信者達の動向チェックを始める。


兄貴のライセンスを借りて5年目、こんな生活を始めて3年目に入りそうだけど、まともな探索者になる準備活動が出来てる手応えを感じつつ、ダンジョン配信だけはなんか上手くいかねぇと考える。


スキルで面白いもんを作ってコイルに売っても、結局内輪で金を回してるだけだ。


なんとか個人で収益化したいから、ダンジョン解説やスキル紹介なんかもやってみたけど、視聴者が3桁行った事はない。


何でだろうなぁと、凹みながら作業を続ける。


見に来てくれる視聴者は、おそらくピクサブのコンテンツ待ちの全裸待機勢と、定着しない一見ばっかりだ。


エンターテイメントを確立しないとならない。


だが、ダンジョンが現れて20年近く経った今では、人気のある攻略系なんかは深層域を超えた異層域とかだし、サバイバル系はプロの料理人とか有名なミュージシャンも居たりするので、ジャンル自体がレッドオーシャンだ。


オレは自分の探索者ライセンス証もないので、万が一個人特定とかされるといろいろヤバい。


それに探索者カメラマンの新迷惑系エロコンテンツは、鳴物入りでバズる予定だったが、ダンジョン配信はダンジョン内が治外法権なのを良いことに、脆い装備で肌が露わになるトリプルエクストリーム探索配信なんて言うエロコンテンツがあるから、思ったより伸びず、ちょっと生温いのかもしれない。


ピンポーン


家のインターフォンが鳴る。


玄関に出ると、ペットのシェードとモルタがやって来る。


シェードは芝犬ぐらいの大きさになっていて、背中にティディベアぐらいの大きさの白塗り、厚みのあるクッキーモンスター見たいな見た目で、顔にニコニコマークがくっついてるモルタが乗っかってる。


「飯の時間だな」


オレはすぐに二匹を招き入れると、シェードにはジャーキー肉と高級なカリカリ、モルタにはビックマシュマロ一袋とチョコでコーティングされた満足系シリアルバーが入ってる箱ごと出してあげる。


この二匹は元々ダンジョンモンスターだ。


オレの鑑定では、シェードはルナミスシルバリオンって言うモンスターの狼らしい。


子犬から15mぐらいの大きさまで変化できて、ありえないぐらい速くて、めちゃくちゃ強い。


出会った時は棲家の山から出たいけど、ダンジョンモンスターの理ではそれも叶わず、悶々と過ごしていたらしい。


つーか、変化できるなら人型にもなれたら良かったのにね。


モルタはVrrh’Naqth・Orrh’Xyulって言うゴーレムみたいな種族らしいが、鑑定の画面が文字化けしまくっててオレには読めない。


白塗りのモルタル見たいな色だったので、モルタって名前で呼んだら喜んでた。


モルタは3mぐらいまでしか大きくならないけど、キューブ型だったり、UFO型だったり、小人人形だったりといろんな形でいっぱい分裂体を作れる。


出会った時は本体の顔にあるデカい口が丸見えだったが、ひたすら隠して恥ずかしがるので、手持ちのマグネットシートにニコニコマークを念写してそれをあげたら、顔を変形させて仮面みたいにくっつけて喜んでた。


今では自分の大きさに合わせて、マグネットシートが変形するほど顔に馴染んでいる。


とまぁ、シェードとモルタはオレがダンジョンにいる時以外は、大体ダンジョンの外で遊んでいる。


今の所、問題も起こってないし大丈夫だろう。


それにダンジョンにいる時は、シェードはどっかからともなく現れるし、モルタは分身をマジックバックに入れて常駐状態なので、その分身から援護してくれる。


なんとも有難いペット?だけど、二匹とも好き嫌いが激しくてエサ代がめちゃめちゃかかるので大変だ。


シェードのカリカリとか、2kgも入ってないのに、7000円とかする。


モルタは甘いものしか食べないけど、安っぽいをあげるとなんか違うらしくて、悲しがるのが反則だ。


毎月のエサ代は20万円を軽く超えるので、なんとかして好みのダンジョン飯を見つけないと破産しそうだ。


今のところはコイルの投資や、ダンジョン産でも規制を受けにくい下級のドロップ品をネットフリマで売り捌いて凌いでいる。


シェードはカリカリをガツガツと食っているが、モルタはチョコのシリアルバーを何本か食べ終えると、身体の内側からUSBメモリを出して、差し出してくる。


「お!もしかしてもう出来たの?」


オレがモルタに話しかけると、握り拳ぐらいあるマシュマロを食いながらウンウンと肯定する。


オレは早速、データを確認すると、神楽かえでの1080度3D映像と、おそらくの裸体、インナー被服、衣装、防具が分割された3Dモデルデータが入っている。


素晴らしい戦闘記録だ。


ピクサブに上げてすぐにでも販売したいが、フィギュアの製造と同時って約束したので、フィギュアのモデルデータとしてコイルに渡さないとまずいな。


こう言うデータはネット越しに送ると、どこで枝がつくかわからないので、もらったUSBメモリをバイク便で送るか。


「モルタ、サンキューだぜ」


オレはそう言って、別に用意している空のUSBメモリを渡すと、モルタは照れてる様な仕草をする。


飯と仕事を終えて満足したのか、二匹は仲良くリビングのソファーで寛ぎながら、テレビを見始める。


モルタはホラー映画が好みみたいで、シェードは旅行番組や料理番組が好きみたいだ。


オンデマンドチャンネルの使い方や動画配信サイトの使い方を説明したら、モルタはリモコンも使わない遠隔で、シェードは器用に爪を使って操作しているので大丈夫だろう。


そう言えばピクサブの売り上げどうなってるかな?


そろそろ20日だから、予定金額だけでも確認しとこう。


ん?ログイン出来ないな。


障害かな?


「規約違反により、強制退会処理を行いました」


よろしい、ならば配信だ。


ダン生もダンチューブの配信アカウントもログイン出来ないな。


RINNEもか。


「なんだ?一気にアカウントBANされてんな」


滅多にしないエゴサをすると[魔羅月BAN]が下位でトレンド入ってんな。


「クッソ、なんか動かしやがったな」


まぁ、ピクサブの売上や配信の収益なんて、毎月数万円だったから、この際捨て置くか。


細々と半年ぐらい[探索者カメラマン石井]として活動してきたわけだが、関連アカウントをいっぺんにBANされるとは思ってなかったので、ちょっと予定外だ。


活動アカウントを確認していると、foovarとミラー配信してたPunchと言う海外系の配信アカウントは生きてるみたいだ。


国内でなんか動きがあったかもしれないな。


まずは様子見でPunch配信でもするか。


foovarに「デジタル屋台と探索者配信の運営は、売上差し押さえた上にBAN喰らわして来たので、いつか落とし前つけさす」って書き込んでおく。


『営業妨害にあったので、正当防衛する』(配信タイトル)


背景はモルタの端末が生成してくれる、適当なダンジョン系風景だ。


いつも通り、俯瞰用ドローンを飛ばすと、ドローンの背景を消した自撮り画像にひょっとこ天狗の顔マスクをして配信画面を作り、早速配信を開始する。


トレンドに上がってたおかげか、スタートから視聴者が11人居た。コレはサブアカウントなのにバッチリかもしれない。


「オマエら、燃料投下でマラついてんな?」


"BANおめでとう"

"汚物は消毒や!ココもはよBANされろ"

"新作の販売どうすんやぁ!"


「まぁ待て、新作の販売は屋台探さんとならんな」


"売れる場所あると思うなよクソが!"

"見つけたら通報します"


「おー、私警察湧いてんな。草も生えねぇな」


BANに関しては予想は出来た話だ。


予備プランはいくつか考えてあったが、一斉にBANされたのでおそらくの外圧がありそうだから、別の販売プラットフォームで売るのは無理筋だろう。


違法になりそうな闇や裏系に潜るのは得策じゃ無い。


そもそも売ってるのは、至って合法なデータだ。


「まぁ言い掛かりで、島荒らしてくるのは予想の範疇だったからな、だが、メインの活動拠点を全部襲ってくるとか容赦ねぇな!嫌いじゃないぜ」


敵対するなら徹底的に電撃戦。


相手の弱点になる活動の結束点を一網打尽にして、後は烏合になった相手を仕留める。


だが、組織的な相手なら良いかも知れないが、オレは比較的自由な個人勢という事を忘れている。

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