第4話
「びっくりしたでありますな」
先ほどのグラスの割れた音に振り返ると、そこには[ターゲット]のモモちゃんが驚いた表情で、カフェラテとオモピスをお盆から落としている姿だった。
「申し訳ございません、ご主人」
店内の別の場所からマニュアル対応の声が聞こえたが、モモちゃんは驚きの表情で、その場で固まっていた。
その姿に異変を感じたのか、カウンターの奥にいた他のメイドキャストが片付けやモモちゃんのフォローをしていたが、改めて他のメイドキャストがオモピスとカフェラテを運んできてくれた。
コイルはアクシデント込みで楽しんでいるようだが、オレは[ターゲット]の変化の方が気になっていた。
「時にワイルディ氏、この絵を追加で求む場合は、おいくらですかな?」
「今回はお試しだが、コレは普通にK殺が来るから、人向け念写はもうやらんぞ」
「なんと殺生な物言い!」
ぐぬぬとコイルは拳を握るが、試してわかったのは、コレは不味そうと言う事。
そんな趣味は無いから本気で試してなかったが、思った以上に衣服を狙って透過した絵が鮮明だ。
「まぁ、魔導回路の複製もバレたらヤバいぞ、結構ズーム効いたからな」
「ふむ…なるほどでありますな」
「機械の基盤とかで試したら、重なってる層を一層ずつ分離は出来ないみたいで、表面と裏面からの視点しか使えないから、積層してる部分はどうしても重なっちゃうんだけどな」
「電気では多層は多いでありますが、積層の魔導回路は多くはありませんからな、十分に実用的ですな」
「コレの技能で投資は30は欲しい」
「30ですかな?ひと月に一回、指定の[ターゲット]の念写で、倍額に致しますぞ?」
「オマエの性癖で倍額…まぁ再販不可に出元の秘匿を条件に加えるなら付き合ってやるか」
コイルはしめしめと言う表情でグフフと言いながらスマホを操作して振り込みをしてくれる。
金額は80万だった。
「コイル、なんか多いぞ?」
「ワイルディ氏、間違いはありませんぞ。契約金は60、良い出来だったので賞与で1枚10、妥当な金額でありますぞ」
「オマエ、マジでお大尽だよな」
「ワイルディ氏もなかなかのお手前でありますぞ」
2人でグフグフ言いながら、美味しくオムライスを頂いた。
萌え萌えキュンは未だに恥ずかしみを得るが、値段なりの拘りと美味しさを感じられるオムライスを平らげ、食事の余韻に浸っていた。
オレのドリンクは普通のオモピスだが、コイルが頼んだラテアートは、どうやってやったかわからないけど、何かのアニメのキャラがプリントされている。
コイルはそのアートを崩さないように飲むか、あえて崩して飲むかで15分ぐらい格闘している。
「ちょっと待ちなさい」
オレたちの席にコイルのお気に入りのモモちゃんがやって来るなりそう言う。
「さっきの絵は出元はどこ?正確に吐かないと酷い目に遭うわよ」
「はぁ?酷い目が何かわからんが、さっきの絵の意味もわからんのだが」
「シラを切っても無駄よ」
「さっきの絵というとコレのことでありますかな?」
「@$#%€&¥」
いきなり子供が怒って癇癪を起こすと、冷静になった瞬間、コイルの手から絵を奪おうと襲いかかってきた。
「いけませんな?キャストのおいたにしては、やり過ぎでありますぞ」
コイルはそれを難なくかわすと、念写の絵は自分のビジネスカバンにしまい込んだ。
コイルはオタキモ風のしゃべり口だが、見た目はしっかりと常識は踏まえたビジネスマン風だ。
「この変態ストーカー!」
「この子供、何言ってるかさっぱりわからないぞ」
「ワイルディ氏、ここは一旦退散いたしますかな?」
「いいや、誤解を解かないとまずいだろう」
「誤解?」
「そうだ、誤解だ。第一に店の中だぞ?」
嫌な予感がしたので、席の魔導具はそのままにしていたが、モモちゃんはハッと気がついた様に周りを見渡すと、周囲にはキャストやお客さんが沢山居るのを思い出した様子だ。
「何の言い掛かりかはよくわかったから、冷静になって話をしよう」
「話をするなら、秋葉原の駅前にある喫茶店が良いでありますぞ。人目も多いので、3人でお話ししても安心でありますな!」
「くっ、3人じゃ心配だから、私もマネージャーを呼んでいくけど、問題は無いでしょうね?」
「もちろん」
モモちゃんと喫茶店の場所や待ち合わせ時間を確認して、その間にコイルが会計を済ませてくれたので、メイド喫茶から出る。
「いつもご馳走様」
「問題ないでありますよ」
「しかし、面倒な事になったな」
「気付かれるとは、下手を打ちましたな」
「視線が通って無いと出来ないから、面倒な[ターゲット]の時は準備を頼むぜ」
「そうでありますな!」
会話の内容は完全にゲスだな!
「一番の問題は、上質な紙の手配でありますな」
コイルの問題は、紙の品質管理で目一杯の様だ。
メイド喫茶の仕事が終わるのが16:00と言われたので、コイルと駅前の喫茶店でゲスな話の打ち合わせをしながら待った。
「で、誤解ってどう言う事?」
「とりあえず落ち着いてくれ」
黒いツバ付きの帽子を深々と被ったモモちゃんは、スーツ姿の女性と一緒にやって来る。
モモちゃんはどう見ても中学生には足りない背丈に見えるので、黒いツバ付き帽子の出立ちが逆に目立つ様に感じるが、喋らなければ男の子に見えるので、そう言う変装なんだろう。
スーツの人はマネージャーって言ってた人かな。
「まぁ、飲み物ぐらいは出すから、先ずは座ろうぜ」
「コレはモモちゃんのアフターですかな?」
「何をバカな事を言ってんのよ!私はアップルジュースでいいわ、あなたは?」
「結構でございます」
マネージャーと言う人は、俺たちの対面にスッと座ると、畏まった雰囲気でじっと俺たちを観察している。
「んで、あの絵になんか問題でもあったのか?」
「大アリよ!このストーカー!どこで仕入れたか知らないけど、盗撮写真なんて許せるわけないでしょ?」
「ちょっとマテ、アレは写真じゃない」
「はぁ?」
PCで描いたイラストのイメージを打ち合わせしてたと打ち明ける。
全くの出鱈目だが、エロコンテンツ作ってたって言う方がそれっぽいだろう。
「そうでありますな、ワイルディ氏の絵作りでしたら[マンマー]も狙えますからな」
「ぐぬぬ、ちょっと乱暴にしないから、もう一度確認させなさいよ」
「仕方ないでありますな、元になる原稿に一枚10万円ほど支払っております故、丁重な扱いをお願いいたしますぞ」
コイル氏はビジネスバックから問題の絵を二枚取り出すと、モモちゃんに見せる。
「どうだ?写真だったら、背景は切り抜いて被写体が端が切れてるような写りはしないだろう?」
「くっ、あなたはどう思う」
「…残念ですが確かに写真ではありませんね、デザインはよく似ていますが証拠もございません」
「どこにでもありそうな安牌デザインにしたんだけどなぁ」
「このイラストはアニメやってた絵師を使って描いてもらった私のプリントにそっくりなのよ!飾りもオリジナルなの!イラストが安牌って言うなら、どこからデザイン仕入れて盗んだわけ?」
あ、やば。
こんな女の子向け下着がワンオフだとは思わなかった。
「やっぱり盗撮ストーカー野郎だったわけね!」
「いや、その論点はおかしい」
「何でよ?」
「このデザインがワンオフだって言うなら、現物見せてから言ってもらおうか?」
「は?」
「は?じゃないだろう?人のイラストを盗作だの盗撮だの息巻いて、実物はありませんでスジが通らないだろう」
「なっ」
「お見せしたら良いんじゃないですか?」
マネージャーは俺たちを詰める自信があるらしく、その意見に同意をして来る。
「よし、この絵のせいでストーカー呼ばわりされたなら、納得は行かないからすぐにでも用意してくれ。別に俺たちはこのイラストに拘りがないから、ストーカーとかのいちゃもんが無くても、モモちゃんが嫌ならデザイン変更するだけの話だしな」
「そうでありますな!手前も推しは数多におりますが、そう言った犯罪にまで手を染めるほど落ちぶれておりませんからな」
「ぐぬぬ」
「モモさん、お家の方にご連絡して、写真でもよろしいのでは?」
マネージャーが強く言うので、モモちゃんの顔がどんどん赤くなっていく。
そりゃそうだよな、念写で写ってるなら今履いてるだろうし、ワンオフならそんなに早くは準備できねえよな。
なんとかこの辺で押し切って譲歩を出して、ストーカー疑惑だけは解除しよう。
コイルと目線を合わせて合図を送ると、譲歩を出すタイミングを見計らう。
すると、モモちゃんはスッと椅子の上に立ち上がって、いきなりスカートをたくし上げてプリントパンツを見せつけてきた。
一瞬の出来事だったので、呆気に取られたが、マネージャーがすぐ様その格好を取り押さえると、ギャーギャーと2人で騒ぎ始める。
「まさか履いてるの見せるとは…」
「小生、今の一瞬を宝にするでありますよ」
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