第3話
「コイツに命令されて、逆らえなくて!」
「はぁ?なんの事だ!テメェふざけんじゃねぇぞ」
そいつは丸メガネをした、ステレオタイプなデブなオタキモと言った男で、口喧嘩の過程で[石井]って名乗った。
まぁ本名かどうかは知らねぇ。
18歳になって成人して始めた夢のダンジョン探索、3日目の出来事だった。
表層域の上層でゴブリンをやっとの思いで仕留めたら、いきなり走ってきた[石井]から、古めかしい型だが確実に高性能そうなデカい望遠レンズのついたミラーレス一眼カメラを手渡された。
まだダンジョンの理とかも知らないオレは、そのまま[石井]と口論になったが、丁度モンスターとやり合ったり自分の探索人生で上手くいかなくてムシャクシャしてた時期だったので、突然の言いがかりに[石井]を殴りつけたのが不味かったのかもしれない。
「君!暴力はやめたまえ!見苦しいぞ!」
「うるせぇ、いきなりあっちこっちから話しかけんじゃねぇ」
ムカつく野郎を徹底的に殴り倒そうと振りかぶった右腕をキツく止められて、身動きが取れなくなったオレは、背後から押さえ付けてくる男に食ってかかった。
「うわー、めっちゃ怖い」
「変な写真撮られたのはこの人達です」
その後ろから3人組の女子が喋りかけてきた。雰囲気から見ても同い年ぐらいだったと思う。
「人が必死こいて金策してるっつーのに、邪魔してくんじゃねぇ。なんだオマエら」
「物言いは結構だ、そのまま寝てろ」
オレはいきなり衝撃を感じるとそのまま意識を手放した。
「フザケンじゃねぇ!」 ガバッ
気がついたのは自室のベットの上。
嫌な思い出を振り返して、脂汗で背中がびっしょりだ。
クッソ、よりにも探索者協会から除名された記憶なんて、2度と思い出したくも無いトラウマだ。
きっとPTSDってやつだな。
状況が悪かった上に[石井]にハメられて、オレはJK探索者の盗撮の共謀者に仕立て上げられ、ダンジョンに潜るためのライセンスを失った。
探索者で名を上げようと上京したのは良いが、ライセンスの再取得には欠格期間が5年って言われて、為すすべなく、1週間で地元の群馬にとんぼ返りした。
今でもその悔しさは忘れられねぇ。
「…こんな時は薬草アロマだな」
ダンジョン素材の代表格である、薬草から取れた油をアロマオイルにしたものを、適当なネットショプで買ったアロマポットのお皿にたらす。
お皿を中にセットしてスイッチ押すと、お皿の下で電球が光って加熱される。
最初は元の機械の作りが適当すぎて、熱くなってオイルをたらすお皿がめっちゃ焦げたり、オイル入れ過ぎて煙出まくってボヤと間違えられたり、色々と困った。
それをメカ担当のダチに相談したら、なんか秋葉原で色々買わされて、温調出来るように改造してくれた。
未だにボヤと勘違いするくらい煙が出るのが玉に瑕だが、香りはとても気持ちが落ち着くし、なんかやる気も出るので、滅入ったり疲れた時には最適だ。
まだ窓の外は暗いので、いつも通りにお皿一杯にオイルを広げて電源入れると、ふわふわ煙が出てきて良い雰囲気になってくる。
そのまま二度寝した。
「相変わらず、不思議な臭いですな!」
「なんか臭い成分が良いっぽいんだよねぇ、抑えたらただの香りが良いお香になったし」
メカ担当のダチに秋葉原にあるドン・カラートで買った、滅臭力プラチナムエディションを吹きかけられる。
メカ担当にアポを取ってたオレは、二度寝の後に昼前の秋葉原で待ち合わせをの予定を行動中だ。
メカ担当のダチは駒形浩一、中学ぐらいから何故かコイルって呼ばれ出した気がする。
オレは広瀬川晴人、何故かワイルディと呼ばれてる。
コイルとは小学は違ったけど、中学からの幼馴染だ。
「その臭いは職質を受けて厄介で非効率ですな!」
「ああ、なんか危ないおくすりの香りに似てるって言われたの、すっこり忘れてたぜ」
秋葉原の駅前で速攻警官に囲まれて一悶着あったオレたちは、面倒な疑いを晴らして、何食わぬ顔で電気街の裏路地を歩いてた。
「ワイルディ氏、今日は普通の撮影用ドローンをご所望でしたな?」
「そうそう、この前の配信で焼けちゃったの見てただろ?」
「ふひひ、カメコをトカゲのしっぽにするとは、ワイルディ氏は相変わらずのワルですな!」
ちげぇねぇ。
ダンジョン界隈の配信は、vtuberと並んで今や人気コンテンツだ。
基本的にダンジョンの探索はお金になる話だし、上手く攻略出来る話には一定の注目が集まる。
自然とカメコがたくさん湧くんだ。
それに生き死にも関わったりするから、一定の刺激が欲しい視聴者も多い。
「視聴者は相変わらず増えねぇんだよなぁ、予定では既に万を超えてるはずなんだが」
「それは夢を見過ぎですな!」
コイルの指摘にぐぬぬと拳を握る。
「夢見過ぎは良いけど、この前渡した新作はそろそろ使えそうか?」
「あいたたた、手痛いところを突かれましたな。上手く制御するには至りましたが、装置が大きくて非効率なのですな」
「あー、まだ製品化するには遠いのか」
「そうですなぁ、それに電子系パーツは試験製造のコストが高くてかなわんですな」
「まぁなんとかモノにしてくれんだろ?」
「それはもちろんでありますぞ!夢のロリ娘魔法使いホムンクルス製造の為にであれば、惜しく無い労力でありますな」
コイルの好みは知らんが、オレが見つけた合金を活用した稼働するフィギュア製作のプロジェクトが進行中だ。
コレが完成すれば、一体10万円以上で売れる事は間違いなし!と予想する。
お互いの野望を再確認して、御目当てのドローンや電子部品なんかを買い漁ると、コイルが常連のメイド喫茶[カフェ・ラピネット]に向かった。
「お帰りなさいませ、ご主人さま!」
コイルは案内に入ったメイドキャストと何かを話すると、そのまま窓際の奥の席に案内される。
いつ来ても思うけど、結構この店混んでるよなぁ。
所々にぬいぐるみが置いてあるのが特色らしい。
オレはいつも通り、テーブルで話す会話が漏れない様にする隠蔽スキルの宿る魔導具を発動させると、コイルとの会議に臨む。
「コイル、神楽かえでの使ってた魔導回路の正確な念写の絵。いくらで買う?」
「ふむ、いきなりですな。真贋はどの様に?」
「実際にスキルを発動させるから、後で確認しろ」
オレはそう言いながら、メニューを眺める。
いつも思うんだけど、ココロがこもったオムライスがドリンクとショバ代込みで4500円って言うのはちょっとお高い気がする。
まぁ、ここの払いはいつもコイル持ちだから気にしない事にしよう。
「ちなみに、どんなスキル何でありますか?」
「んー、いくつか試してわかったのは、対象の目視が必須で、視点は目視が通る位置までだった」
「視点ですかな?」
「そう、適当な金庫で試したら、扉の内側は念写可能だが、扉の位置から視点が動かせないから、金庫内の引き出しとかの内部は無理だった」
「なるほどでありますな、ちなみに人などは如何でありますかな?」
「人かぁ。内臓とかそう言うのは無理だったし、裸も無理だったぞ」
「なるほど?洋服の方は?」
「お前なら絶対そこを気にすると思ってたよ」
メイドキャストがオーダーを聞きに来る気配を察知して、オレは一度会話を遮る。
コイルも察した様で、オレはオムライスとオモピスのセット、コイルはナポリタンとカフェラテアートのセットを頼んだ。
メイド喫茶でカフェラテアートとか、もはや古典だよな。
「では、小手調べにお気に入りのモモちゃんの念写をお願い致しますぞ」
「モモちゃんって誰だよ。。。」
「入り口付近に居られる、小柄な方ですぞ」
「そうか。。。そうだったな」
コイルは真性のロリコンだったな。
「さぁ、我が財力を供物へと昇華し、等価交換のスキルを顕現させるのでありますぞ」
「なんだそれは、用意した紙はA4だから、おパンツぐらいで勘弁しろよ」
オレはお出かけ用の肩下げバックから厚紙を一枚取り出すと、周りに気とられない様に念写を開始する。
一応、日本国内では、ダンジョン以外のスキル発動は事前許可申請が原則だが、今使ってる隠蔽の魔導具なら会話と魔力は外に漏れない。
「んー?失敗したかも?」
「どうしたでありますか?」
「んー近くの子供に注意が向かったかもしれない、プリンキュアのプリントパンツが念写された」
「なんですと!よく見せるのであります」
コイルはオレの手元の厚紙をふんだくると、頷きながら確認する。
「マネー成立でありますな」
「対象が間違った可能性が高いから、もう一枚モモちゃん?の念写をするわ」
「おぉ、サービスが良いですな」
「バカ言え、念写がミスった可能性は見逃せない」
オレはもう一枚、厚紙を取り出して、[ターゲット]のモモちゃんをよく確認すると、慎重にスキルを発動する。
むむむ。
やっぱりプリンキュアのプリントパンツが念写された。穿いている臀部の切り取りと共に、フロントのプリントは小さなリボンとふわふわのフリルがあしらわれている。
まさかとは思うが、こんな事で秘密にしてそうな幼児趣味を発見してしまうとかないよな?
2枚の厚紙を並べて会話をしていると、席の近くで派手にカシャーンとガラスが割れる様な音がした。
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