第2話

「おっし、無事回収」


オレはダンジョン下層に設定していたドローン回収ポイントで、俯瞰用と近距離用の撮影ドローンを回収する。


今は配信が止まったままで事故ってるので、俯瞰用ドローンの設定を切り替えて、映像から人物を切り抜く[ポートレートセグメンテーション]の機能を有効にして、顔のマスキングで天狗みたいな鼻のヒョットコの立体画像マスクして、配信機材に送る。


バイザーのディスプレイで配信端末を操作しながら、そのカメラ映像レイヤーを配信の右下に配置して、場所の特定が出来ないように適当なダンジョンAI背景空間を生成して、映像を切り替えて配信を再開する。


"おっ、映像復帰したな"

"はぁ?神楽かえでの配信で、盗撮野郎捕まえたって晒してたぜ?"


「マジか、盗撮とかヤベェな!だがオレは戦闘記録のマラつくクリップを無事回収したぜ?」


オレはゲラゲラ笑いながら、配信を続ける。


視聴者は3人まで減っていたが、映像が復帰すると一気に15人まで増えた!


「お!スゲェ、なんかいきなり視聴者増えたぜ!」


オレは喜んでコメントするが、コメントの反応は鈍い。


「なんだよ、せっかく視聴者増えてんのにROM専ばっかりか?」


"私は買う専w"

"販売何時っスか?"


「んー、戦闘記録データを確認しねぇとなんとも言えねぇけど、おそらく来週には仕上がるだろうな」


"速い仕事で捗りますな"


「おうよ、大手の[ターゲット]の新衣装の戦闘記録だしな!今回は当たり衣装だったし、手間かけて1080度3D映像と新作フィギュアも売る予定だ!」


"マジか!久々の新作ワクテカ"

"はぁ?1080度ってなんだよ"

"出たー謎角度www"


「はぁ、オレの配信ニワカ居るじゃん。1080度3D映像知らないとか、一回オレのピクサブ見てこいよ」


オレは手を仰いで、一見さんお断りサインを出すと、マジックバックに近距離撮影用のドローンをしまって、後方支援用ドローンを取り出して放つ。


「さぁ、何処かの配信でも煽りに行くか!」


オレは配信のワイプを左下に出すとPIPで[ターゲット]配信を映し出し、ワイプ音声を自動認識で字幕に出しながら、自分は骨振動スピーカーで視聴確認する。


『えぇ、じゃぁこの人は無関係の一般の方?』

『ええ、どうやら相手の配信が復帰したようです』

「ブハハ、いきなり面白い映像が映ってんな!」


おそらく事故映像だな!


おそらく一般?のカメコ君だと思う、たまたま近くに居た別の探索者に、オレの配信ダミーカメラを追従させて囮にしたが、どうやら[ターゲット]の護衛はそれを見抜けずにとっ捕まえて、断罪モードに入っていた様子だ。


[ターゲット]の配信の片隅で正座させられている人が居るので、おそらくオレと間違えて捕まったヤツだろう。


"コイツダレダヨ"

"神楽かえでの配信で盗撮野郎捕まえたって息巻いてたのに、盗撮野郎の配信が無事復帰するとか草も生えねぇわ"

"この程度で[魔羅月クリッパー]が捕まる訳ないじゃん"


「つーかよ、その[魔羅月クリッパー]って誰だよ?、オレの配信チャンネルにちゃんと自己紹介書いてあるだろ?探索者カメラマン石井って」


"石井って誰だよw"

"戦場カメラマンみたいに言えば赦されるとでもw"

"どっかの配信者が二つ名つけたらしいぜ"

"そんなダッサいネーミングよりマシだろw"


「はぁ?どっかの配信者ってどちら様よ、人様の名付けとかケンカ売ってんのか?」


"大手の探索者解説者だっけ?"

"エゴサぐらいしろよw"

"[月並バサラ]だっけ?"

"あー、探索者の動画で戦術とかスキル解説をしてるvtuberだろ"


「なんだソイツ、オレの戦闘記録も使って売名って感じか?」


"過疎配信を踏み台w"

"月並の配信はオマエの配信の1000倍は人おんでw"

"イキッちゃいました、ナイスクリップ頂きましたw"

"オマエの戦闘記録なんか使ったら18禁だわw"


「はぁ?そんな花もない解説配信で数千人集まるとか、そこの視聴者はバカかアホか?」


"逆ギレwww"

"オマエの配信の1000倍は役に立ってるwww"


ちくしょう、なんか言い返せねぇ。


しかも何時の間にか、他人から二つ名を投げつけられて、そっちの方が有名になってた。


オレを配信のネタにするなら[foovar]でDM投げて、許可取れつうんだよ。


これだから探索者界隈なんて、身勝手な奴らばっかりで信用なんて一切出来ねぇ。


「クッソ、相手も一応調べとくがな、オレは石井だ!間違えんなよ!」


"石井って誰?定期"

"ワロタ"


自分の配信でくだらない事を言い合いしてると[ターゲット]の配信が慌ただしい様子で終了した。


おい!肝心な[ターゲット]の配信の経緯見逃しちゃったじゃねぇか。


「つーかよ、見たい配信終わっちゃったじゃん!テメエらが余計な事喋ってんから!」


"あーマジだ"

"神楽かえでの配信、状況を確認してから後日配信するってさ"


「マジかぁ、もうちょっと頑張って配信してくれりゃぁ、おちょくり甲斐があったのに、割と根性ねぇな」


"どの口が言うwww"

"魔羅月!神楽さんに謝罪しろ!"

"盗撮野郎!逃げんなテメー"


「おお?コメント荒れてきてんぞ。相手が配信終わったからアンチ湧いたか?」


"通報しました"


「だいぶコメント荒れてきたな。まぁ、戦闘記録とかの販売は[RINNE]とか[foovar]で告知すっから、今日はここまでにすんっぞ」


"逃げるな魔羅月!神楽さんに謝罪しろ!"

"通報しました"

"コイツはBAN確定"

"逃げるな魔羅月!神楽さんに謝罪しろ!"


段々と連投系の荒らしコメやアンチコメが増えてきたな、そろそろ今日は潮時かもしんねぇ。


「テメエら!ココは世界一番、謙虚で自由なチャンネルだが、クソつまんねぇコメやコピペ連投は即BANだからな。たった2行しかねぇルールぐらい守れよ。じゃぁな」


オレは二指の敬礼をカメラに向かって送ると、そのまま配信を落とす。


コメントはそのまま荒れてたが、配信外だからBANは勘弁してやるか。


操作めんどくせぇし。


オレは配信用の機材を落とすと、俯瞰用ドローンをマジックバックに回収して、3本1セットのポーション瓶を取り出す、それを割って有効化して[潜伏モード]に入る。


ダンジョンの魔力の影響が濃い一室で、その辺に散らばっているモンスタードロップをマジックバックにしまう事にした。


牙やら鱗やら魔石やらをしまうと、何で出来てるかさっぱりわからない瓶に詰まった血と紅色が鮮やかな肉を見つけて、それもしまう。


「あー、血がドロップしたせいで、目当ての肉すくねぇな」


オレは軽くボヤくと、部屋の奥の方から小さく犬の吠える声がする。


「おー、シェード!いつもありがとうな!」


オレは部屋の奥に向かうと、金色の宝箱と地面にネオンサインのような青い色で輝く魔法陣の辺りで待機している、銀色の毛並みが美しい子犬に話しかける。


そのまま、コレでもかと言うぐらいに撫で回すと、マジックバックから厚切りのジャーキー肉を取り出した。


子犬にそれを与えると「待ってました」と言わんばかりに喰らいつく。


「おー何時も気持ちいい食いつきだな」


オレはその様子見ながらほっこりする。


「やっぱり、信頼できるのはオマエらだけだな」

「ウォン!」


喋るわけはないんだが、気持ちいい返事に思わず笑顔になった。


オレは金色の宝箱に看破のスキルを発動させると、宝箱は特に変化しなかったので、罠は無いようだ。


そのまま宝箱のフタを開けると刃が真っ赤に染まった片手剣がドロップする。


鑑定スキルを使うと[紅蓮剣]と表示された。


紅い刀身で顎には赤色の宝石がハマっていて、柄の作りもカッコいい。


だが、片手剣は隠密性に欠けるので、出るなら短剣かナイフが良かったなぁと思いながら、マジックバックにしまい込んだ。


後はジャラジャラと宝石や色々な魔石と金貨が入っているが、分割するようなパーティーメンバー居ないので、マジックバックにかき込むようにしてしまう。


クッソ、コレがギルド買取や公開オークションで販売できればかなり儲かるのに、今のオレにはその選択肢が無いので、マジックバックかタンスの肥やしにしかならねぇ。


こうなったのは思い出すのも腹立たしい過去の話だ。


「クゥーン?ウォン」


金色の宝箱を蹴り付けて、過去の鬱憤を晴らしていると、シェードが慰めてくれるかのように足元に寄ってきた。


まじ、オマエいい奴だよな。


オレは気を取り直して、出口に向かう事にした。


だが、おそらく上層や出入り口も、監視が張られてるだろうからまともにダンジョンの入り口からは出られねぇ。


だが、ダンジョン最奥の帰還魔法陣なら、直接出入り口の外側に出られる。


オレは姿を隠したまま、帰還用魔法陣の上に乗った。

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