拗らせダンジョン探索者は[ウラ配信]でウハウハしたい
@xtokaito
探索者カメラマン石井
第1話
「クッソ、今回は高レベル護衛付きか!」
板橋にあるダンジョンの表層域中層、大手のプロダクションがついてるアイドル探索者の様子を探知を使って伺いながら、つい愚痴が漏れる。
スマホですぐに[ターゲット]の配信を確認するが、ライブは始まって15分経っていた、まだイントロトークの最中だ。
[ターゲット]の配信タイトルは【新衣装お披露目!中層ソロ探索!今日もがんばります!】となっているが、ソロで探索してるって言うのは間違いなくブラフだ。
まぁ、贔屓目に撮影スタッフを除いたとしても、周囲に表層クリアクラスの力量がある探索者が10人配置されている。
"通報しました"
"なんでコイツBANされねぇんだ?"
バイザーマウント型の透過型ディスプレイに、自分の配信から送られた煽りコメントが表示される。
「ああ?お前らとオツムの出来が違うからじゃねぇか?」
オレはそう言って悪態を吐くが、配信が始まって1時間ぐらい経っているのに、大手にケンカをふっかけた自分の配信は5〜6人ぐらいしか視聴者が入っておらず、ガッカリする。
「仕方ねぇ、とりあえずコンタクトエリアに移動するか」
"コンタクトエリアとか草"
"カッコ良さそうに振る舞っても所詮ゲスの極みw"
「うっせ!それで喜んでるなら、スパチャでも投げてみやがれ、貧乏ヒキニートめ」
売り言葉に買い言葉で配信を攻める、配信スタイルで決めた事だし、媚びなんて売ってもメシは食えねぇ。
[ターゲット]の配信予定を見て準備を始めていたので、仕込みの時間は充分だったが、今回は周辺警戒に予定外の人物が居る。
探知の雰囲気から察して、一人は高深度の探索者だ。
高レベル護衛は、事前に予想してなかったので詳しいステータスは検索サイトで引っかかった、探索者Wikiで調べで、マジで本当かどうかわからない情報になってしまう。
[灰燼の炎帝]ってやつが、それっぽいかな。
魔法系のスキルレベルが相当高レベルでかなりの下層以上の高深度階層レベルのはずだ。
オスなんて興味ないが、高レベル探索者は滅多に会う機会がないので、探りを入れて自分のデータベースを更新しとく。
しかし、高レベル探索者なんて、警護で雇うだけで相当な大枚叩いてるのは間違い無いだろうから[ターゲット]の所属している[ダンライズ]は、オレの[狩り]の妨害に本腰を入れた様子だな。
そろそろ島を変えねぇとかなぁ、めんどくせぇ。
『今日は前の配信でも伝えてた通り、新衣装のお披露目だよ!』
骨振動スピーカー越しに、高めのトーンで媚びる様な声色のセリフが聞こえてくる。
オレはすぐに[ターゲット]の近くで待機してる、撮影用ドローンにスキルで操作すると、まだ望遠の状態だけど、衣装の詳しい様子が伝わってくる。
んー。
前回の配信で仕留めた火龍の鱗膜を薄く加工した半透明のプレート。光を受けると紅色の干渉光が走り、動くたびに角度で色が変わる。鱗膜マジョーラカラーか。
補強部分は魔鉄鋼を使ってそうなフレームで、細身ながらも鋭く黒い光沢を放つ、おそらく裏地には魔力を通す繊維が編み込まれ、戦闘時には淡く発光する演出が可能なはず。
被服のデザインは、上半身は肩口と腰回りを大きく開けたシルエットで、インナースーツと言うより舞台衣装に近い。
胸部は竜鱗のプレートを左右非対称に配置し、あえて機能よりも視覚的インパクトを優先、腰から太ももにかけては、鱗膜を薄布状に加工したスカート風パーツがひらめき、動きに合わせて光が流れる。
アクセントに固有ドロップで討伐証明にもなる「火龍のペンダント」右腕には初期から使ってる記念品となってるブレスレットの魔法刻印が光り、ファンとの絆を象徴。
配信用のヘッドセットは角飾り型で、竜の意匠を模したマイクブームが口元に伸びる。
なるほど、かなり凝った大御所のデザイナー起用で、ファンストアで似た装備の特注販売でもするんだろうな。
「マラつくぜ、オマエら、カリノジカンダ」
"待ってました!マラつくぜ"
"マラつくとか草"
いよいよメインコンテンツに入る状況で、配信が盛り上がるはずなんだが、オレの配信の視聴者は相変わらず2桁にもならない。
[ターゲット]の配信は5桁に入ってるのに悔しい。
「先ずは装備の性能チェックだな!」
気を取り直して、ドローンの俯瞰カメラを[ターゲット]の捉える位置まで移動すると、さっそく仕込みを解放する。
ダンジョンのモンスターはダンジョン内のあらゆる位置からスポーンしてくる。
常に探索者を狙う様な意地の悪い事をしない代わりに、完全確率の抽選の様にランダムでスポーンするので、戦闘エリアでは常に注意が必要だ。
今まさに[ターゲット]の目の前で出現したのは、中層モンスターで良く出る戦士級ゴブリンだ。
アーチャーは居ないが、槍と剣を持ったゴブリンウォーリアに杖持ちのプリーストの3体の組み合わせ、衣装の披露にもってこいの相手のはずだ。
『あわわ、いきなり上位種のゴブリンが出ました!戦闘に入ります!』
[ターゲット]はかなり大袈裟に慌てたそぶりをしてから剣を抜くと、そのまま槍を持ったゴブリンがに斬りかかる。
何かスキルを発現したのか、衣装の裏地に幾何学模様
の光が放たれる。
「クリップチャンス!」
望遠距離だった、近距離撮影用のドローンをすかさずローアングルで送り込むと、衣装の裏地のパターンの詳細がバンバン送られてくる。
「ウヒョー、いきなりマラつくクリップ頂きました!」
"テメェ!その動画をすぐに配信するんだ!"
"うわーコイツ複数ドローン持ちかよ"
"何が撮れたの?美味しいの?"
「ワハハ、気になるヤカラは、オレのチャンネルのピクサブからお買い求めしやがってくだしぁ」
"クソが!"
"うわー盗撮動画を売るのかコイツ"
"通報しました"
「はぁ?盗撮なんかするわけねぇだろ。貴重な戦闘記録だ、ボケが。次言ったらBAN喰らわすぞクソが」
"出たぁー戦闘記録www"
"確かに戦ってるけどさぁw"
"何コイツ、頭イカれてんのか?"
"おそらく平常運転"
「テメェら、見たか?あの一瞬で[ターゲット]はスキルを二つ行使したぞ。直線移動系でブーストした硬直を俊足入れて強制キャンセルして刺突攻撃モーションに入りやがった」
オレが指摘をすると、槍持ちのゴブリンウォーリアが一瞬で胸を貫かれ、そのまま黒い霧になって霧散する。
[ターゲット]はそれを確認するまでもなく、すぐにゴブリンプリーストに目標を定めて詰め寄ると、流石に気付いたゴブリンプリーストは、プロテクションで防御結界の魔法陣を発生させる。
結界の解除にもたついた瞬間、剣を構えたゴブリンウォーリアが間合いを詰めてくる。
そこで[ターゲット]は即座にスキルを発動。
初太刀で防御結界を袈裟懸けに斬り捨て、続く二の太刀で薙ぎ払い、ゴブリンプリーストを胴から泣き別れにした。
「クリップチャンス頂きました![双蓮撃]のスキルを上手く使った、きっちり緩急取った移動攻撃とか、マラつくぜ!」
近距離撮影用のドローンはバッチリローアングルを舐める、移動距離とスカートのヒラつきから、布の質量や引張や曲げの剛性のAI物理演算スコアの候補を絞り込むために、ハイパースローモーションを画角を変えながらたくさん録画する。
[ターゲット]はゴブリンプリーストを上手く倒したが、剣持ちのゴブリンウォーリアから詰め寄られて、鍔迫り合いの力比べに持ち込まれてしまった。
見た目の為か、筋力を増加するようなスキルは持ち合わせが少ないみたいだ。
「お?インファイトは苦手か?マラつくイイ表情をクリップチャンス頂きました!」
"苦戦してんのにマラつくとか、ゲスだなw"
"つーか、この娘[神楽かえで]だろ?、中層ザコで梃子摺る訳ないじゃん"
"鍔迫り合いでプルプルしてる"
「おー、こんな良いアングルはなかなかクリップ出来ねぇぜ!この戦闘記録は久々のプラチナ価格だな!」
そんな悪態をつきながら配信していると、探知スキルで急激な移動を始める存在が引っかかる。
ちぃ、もう少し画材は欲しかったが、潮時だな。
配信カメラの画角を一瞬ブレさせると、ダミーの捨てカメラにスイッチする。
なんてない安物の中古カメラだ。
次の瞬間、配信画面は炎に包まれて配信画面が暗転した。
オレは落ち着いて「しばらくお待ちください」のテロップに切り替えると、近くで浮いていた後方支援のカメラをマジックバックにしまい、俯瞰と[ターゲット]撮影用のドローンを回収ポイントに向かわせる。
「あっ!僕の配信カメラが燃えた!」
ダンジョン特有の反響音を響かせながら、少し距離のある位置から声が聞こえる。
「キサマ![魔羅月クリッパー]だろう!ネタは上がってんだ!」
男性の悲鳴と少し痛そうな打撃音が聞こえる。
なんてヒデェ名前の探査者だ。
しかも、未確認で殴りつけるとは。
オレはその声から距離を保ちながら、その場を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます