三
オレと服部半蔵は徳川家康との待ち合わせ場所である近江国の小川城へと向かった。道中、何を喋るわけでもなく黙々と歩いていった。相変わらずこいつはつまらん男だ。小川城へはその日の内に到着してしまった。待ち合わせは翌日ということで服部半蔵は小川城に入城したがオレは近くの寺で一夜を明かした。寺の境内を歩いていると
「カヤト、珍しいね。こんなところで会うなんて」
「カヤト、ひょっとしてうちが見えないの? 仕方ない。少し目が眩むけど⋯⋯」
誰だ?
オレの目の前には見知らぬ女がいた。
「カヤト、うちが見える?」
「見えるが、あんたは誰だ?」
「カヤト、ひょっとしてわからないの? うちだよ、うち」
意味がわからん。
「すまん。今大事な任務を請け負っているからガキと遊んでいる暇はねえんだよ」
「そうなんだ。カヤト、記憶なくしたろ。困ったね」
「そうかい。そろそろあんたが誰かを教えてくれてもいいんじゃねえか?」
その女はしばらく考え込んでから口を開いた。
「うちの名は⋯⋯」
その名前を聞いた瞬間、オレの意識は遠のいていった。
オレが目を覚ましたのは翌日の昼前、寺の客間で寝ていた。
「ようやく起きなさったか。旅の人。どうだ、気分は?」
この寺の住職だろうか。
「すまん。世話をかけた」
オレが言うと住職は笑顔で答えた。
「なに、またいつでも立ち寄ってくだされ」
なんだろう。
この寺の境内に入ってからの記憶がない。
おそらくそこで倒れたのであろう。
オレはその寺を出て小川城へと向かった。ちょうど徳川家臣団も小川城に到着したらしく城門で本多平八郎と出くわした。
「おお、カヤト。来てくれたか。半蔵よくやった」
本多平八郎が喜ぶと隣りにいる男が呟く。
「かやと?」
「殿、こちらは伊賀のカヤト。なんと鬼が見えるのですぞ。おお、こちらのお方が家康様じゃ。頼むぞ、カヤト」
本多平八郎がオレに徳川家康を紹介する。オレは軽く頭を下げる。
「かやと⋯⋯。どこかで聞いたような」
徳川家康が呟く。
「本多様、城門にいつまでもいると目立ちます。早く中へお入りください」
オレがそう言うと徳川家康とその家臣たちは小川城に入っていった。その後、徳川家臣団で評定を行った。もちろんオレは評定には参加などできない。評定で決められたことに従うだけだ。小川城から神山へと向かい、桜峠を越えて伊賀に入って丸柱に至り、柘植を経て、さらに加太越から伊勢に向かうというのが伊勢路までの道程である。おそらくその後で海路、浜松に向かうのであろう。一つ気掛かりがあるとすれば伊賀衆がいなくなった後に織田家の支配がどこまで機能しているかである。織田家が伊賀を完全に支配しているならこの伊賀越えは何も心配いらないが、万が一、伊賀を支配しきれていない場合には伊賀の住民たちがこの伊賀越えに牙を剥く恐れがある。まあ、徳川にとっては、オレはその時のための説得役ということだろう。
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