四
小川城を出発する前に服部半蔵から今回の道程と注意すべきことを伝えられた。
「ここからの道程のほとんどが伊賀を通る。あまりいい知らせではないのだが、ここに来るまでの道程で武田家から寝返った家臣団が落ち武者狩りにあった。十分注意せよ」
「囮ですか?」
「カヤト、口を慎め」
服部半蔵の言葉にオレは首を傾げる。
「囮でないなら無駄死にさせたということですか?」
「口を慎めと言ったはずだぞ。お主の言動一つで三河に逃げ込んだ伊賀衆などどうにでもなるのだぞ」
「はあ、わかりましたよ。でもね、服部様。本当に怖いのは落ち武者狩りではなく、伊賀の民衆の恨みだってことは忘れないでくださいね」
オレの言葉に服部半蔵は静かに頷くだけだった。
そして、オレたちは小川城を出発して予定通り神山へと向かい、桜峠を越えて伊賀に入った。ここまでは順調だったのだが、丸柱・柘植を経て加太峠で事件が起きた。オレが危惧していたことが見事に的中してしまった。加太峠で一揆に遭遇してしまったのだ。
「カヤト、なんとか説得しろ」
服部半蔵がオレの背をつつく。
ほら来た。
やっぱりオレは説得役ってことだ。
しかし、そもそもオレは説得なんてしない。
百地丹波が説得すれば民衆も説得に応じるだろうが、たかが伊賀下忍のオレが説得しても説得に応じないのは火を見るのは明らかだ。かといって、
「服部様、少しの間、皆に目を覆うように伝えてください」
服部半蔵はオレの言葉に頷き、皆に伝えに行った。さてと殺さない程度にね。これが一番難しい。迫る一揆軍に対して、オレは右の腕に力を入れる。
殺さない程度。
殺さない程度。
オレの右の腕からまばゆい閃光が一揆軍に放たれる。出合い頭の閃光に一揆軍のほとんどが気を失った。それを尻目に徳川家臣団は悠々とその場を通り過ぎていった。やがて、オレたちは伊勢路へと通ずる場所にたどり着いた。
「徳川様、この先は北畠領内ですので某よりも徳川様の方が融通が利くはずです。某の案内はここまでといたします。それでは道中のご無事を⋯⋯」
オレの言葉に徳川家康は頭を垂れる。
「大義であった。三河の伊賀衆については安心せい」
別にオレは伊賀衆などどうでもいいのだが⋯⋯。
「それとカヤト殿、日向殿に万が一の事があった場合には浜松まで連れてきてはくれぬか?」
明智光秀といえば天下の謀反人だぞ。
どうして⋯⋯。
まあいい。
「徳川様、明智に万が一のときはおそらくオレでは間に合わないと思うが、それでも?」
オレの言葉に服部半蔵が噛み付く。
「カヤト、言葉を慎め。お主ならどうにかなるはずじゃないのか。素直に頷いていれば良いのだ」
「半蔵、もうよい。ことの成否は問わぬ。頼む。カヤト殿」
そう言って徳川家康はふたたび頭を垂れる。
「はあ、しょうがねえなあ。高くつきますよ」
「カヤト」
オレの口ぶりが気に食わなかったのだろう。服部半蔵の拳がオレの右頬をとらえる。
これでいい。
そんな依頼が成功するはずがない。
「カヤト殿、カヤトという名前なのだが、日向から聞いた気がする。この話、そなたにとっても悪い話ではないぞ」
徳川家康の言葉にオレは目を見開く。
家臣の明智光秀が知っているのであれば織田信長が知っていたとしても不思議ではない。
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