十一
「それじゃ、とりあえず別々に拠点候補を探して日暮れに今井宗久邸で落ち合おう」
オレが雪乃の提案すると雪乃は頷く。どうせ堺に拠点を作るなら港が良いと思ったので港に向かった。
港か……。
内海ということは毛利の村上水軍との連携が必要か。
そんなことを考えていると一人の異国人がオレの前に立ちはだかった。何かよくわからん言葉で右手で十字をきって話し掛けてくる。オレは怖くなり港から堺の町中に戻ってきた。
あの異国人、オレに何を言いたかったんだろう?
日暮れまで町中を歩いて時間を潰す。どうやらすべての地蔵がオレに話し掛けてくるわけではないらしい。日暮れになり今井宗久邸に立ち寄ると雪乃は離れにいるという。離れの部屋に入ってオレは驚愕した。雪乃が腹出してイビキをかいて寝ていたのだ。しかも何かをたらふく食べたようで腹をパンパンに膨らませて……。オレは雪乃を起こそうと雪乃の肩を揺する。
「カヤト、もう食べられない……」
もうそれ以上食うなよ。
オレは雪乃のパンパンに張った腹を思いっきり叩く。
「い、い、痛い。何すんのよ」
「さあ、腹でもこわしたんじゃねえか。それよりちゃんと拠点候補は見つけたか?」
雪乃は人差し指を下に向ける。
「ここだよ。ここ」
「ここって、ここは天下に名高い今井宗久邸だぞ。いいわけねえだろ」
オレがそう言うと雪乃は腹を擦りながら言った。
「あたしとカヤトの愛の巣で使いたいって言ったら即答だったよ」
オレは首を捻った。
何かがおかしい。
どこで間違えた?
翌朝、オレは一人で今井宗久に会いに行った。堺の豪商の今井宗久が伊賀衆におっぴらに加担するわけがない。きっと図々しい雪乃が無理やりわけのわからん理由で使いたいと言ったに違いない。
「ああ、離れの件だね。雪乃ちゃんが子供の頃に自由に使ってもいいと約束したんだよ。大丈夫だよ。織田家になんか屈しないから」
今井宗久はオレにあっさりと言う。
子供の頃の約束、そういう次元の話じゃねえような気がする。まあ、その時になれば今井宗久も事の重大さに気づくと信じオレは離れに戻った。
オレが離れに戻ると雪乃は起きて朝食を作っていた。
「カヤト、どこ行ってたの? もうすぐ朝食ができるから座って待ってて」
雪乃は食べるのが好きなだけあって料理を作るのが得意だ。これを武器にして諜報活動をすればいいのにと思うが、諜報活動の際には絶対に料理はしない。
「これを食べ終わったら伊賀に戻る。雪乃はゆっくりとしておくといい」
「はあ? 嫁が一緒に帰らないでどうするの?」
「いや、それはそういう設定だから。あまり気にしない方がいい」
「あたしがいないとカヤトはお地蔵さんと話すから心配なんよ。嫁に余計な心配させるな」
なんだろう。
百地様の話では第二次伊賀攻めの後に夫婦設定って話だったのに……。
オレと雪乃はその日のうちに伊賀国平楽寺に戻ってきた。帰ってきた瞬間、佐平が下卑た笑いで近づいてきた。
「よっ、ご両人。愛の巣は見つかったか?」
どいつもこいつもおかしなことを言ってくる。オレたちが探しているのは伊賀衆の拠点であって、そういうものではない。
「いやあ、今井さんのとこの離れにしたよ。うふふ」
ここにも頭にお花畑が咲いているヤツがいるのを忘れていた。大丈夫なのか。間もなく織田軍が全力で伊賀攻めしてくるというのに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます