十
それで本願寺顕如との謁見は終わった。帰り道の参道で先ほどの旅の僧侶が立っている。まあ、地蔵だから立っているというよりもそこに固定されているというのが正しいような気もする。
「おや、カヤトさん、お帰りですか?」
旅の僧侶がオレに話し掛けてくる。
「そなた、オレのこと……」
「キャハハ、カヤトまたお地蔵さんと話してる」
雪乃がオレの背中を叩きそう言った。
「というか、なんで起こしてくれなかったの?」
「腹出してイビキかいていたから、そのままにしたんだよ」
オレがそう言うと雪乃は真っ赤な顔で反論する。
「はあ? 腹出してイビキかく娘がいるか」
ここにいるのだが……。
オレは雪乃の口元を見る。アンコの残りカスがついている。それに気付いた雪乃はこれまた真っ赤な顔で反論する。
「買食いなんかしてないよ。それじゃまるであたしが買食いしたみたいじゃない」
それじゃまるで買食いしていなかったような言い草だ。
「用事は終わった。オレはこのまま伊賀に帰るが雪乃はどうする?」
「あたしも一緒に帰るに決まってんじゃん」
そうして伊賀への帰途についた。
オレと雪乃は百地砦に戻り百地丹波に報告した。雪乃が報告している間オレは外で待機していたが、やがて雪乃が中から出てきた。
「カヤト終わったよ。早く行ったほうがいいよ。フフ」
なんだ、その意味深な笑いは?
オレは黙って頷き中に入って行った。部屋に入ると百地丹波が一人で待っていた。
「カヤトご苦労であった。早速だが報告頼む」
「顕如様との謁見にて
百地丹波はオレの言葉を遮った。
「そういうことじゃなくてだな。互いに援軍を送れるようにする盟約の件はどうだったと訊いているのだ」
ん、どゆこと?
オレが黙り込んでいると百地丹波が口を開く。
「まあよい。その話だといずれはまた石山本願寺に行くことになるだろうから、そこで話をまとめてこい」
この任務ってそんな上級任務だったのか……。
「して、雑賀孫一には会えたか?」
オレは頷きこう言った。
「如何にもツワモノそうな男でした。孫一も某の名に心当たりがあるようでした」
「まあよい。今回は顔合わせ程度でよいだろう。それとな、雪乃のことだが……」
そらきた。
雪乃が何か密告したか?
「次の伊賀攻めの後で良いのだが雪乃と夫婦になって堺に拠点を作ってほしい」
はあ?
オレと雪乃はふたたび堺に舞い戻ってきた。堺での拠点作りは次の伊賀攻めの後でも良いのだが拠点となる物件をいくつかあたっていくことになった。どのみち最後は今井宗久の力で拠点をねじ込んでいくのは目に見えてはいるが、形だけでも調べてこいということだろう。
「やっぱり子供たちに環境がいいところがいいわね。カヤトもそう思うでしょ?」
「忍びの育成に適している環境っていうのはこういう町中ではないんじゃないのか」
雪乃の言葉にオレは首を横に振る。
「何言ってんの。これからの時代はそういうのだけじゃダメなんだから。これからは武将より文官として仕官させた方がいいって今井さんが言ってたよ」
文官に仕官ってそれ忍びじゃねえような気がするが、今井宗久もアホくノ一に余計なことを吹き込む。
「次の伊賀攻めでどれくらいの伊賀衆の子供たちが生き残るのかっていうのも関係するからあまり真剣に考える必要ねえんじゃねえのか」
オレの言葉に真っ赤になって雪乃は反論する。
「はあ? あたしとカヤトの子だよ。何言ってんの」
お前こそ何言ってんだ。
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