第3話:自業自得って言葉が似あうヒロイン
「ループしていることを証明してあげる!」
自信満々に言ってみせた甘酒さんには申し訳ないけれど、その方法はなんとなく見当がついた。
きっとこれから起きることを予言して、見事的中させてみせるつもりなんだろう。
何度も同じ時を繰り返して未来を知っているのなら、至極簡単なことだ。
たとえば突然な大震災。
たとえば誰も思ってもいなかった有名人のスキャンダル発覚。
なんだったらいくつかのスポーツの結果を、勝敗だけじゃなくて得点までもズバリ当ててみせるのもいい。
とにかく僕を「そんな!? そんなことが本当に起きるなんて!」と驚かせて、納得させたら甘酒さんの勝ちだ。
▽ ▲ ▽
「では今のところを松本君、訳してみてください」
山田先生に指名された松本君が起立して、たどたどしくも英語を日本語に変えていく。
月曜日一時間目の授業は英語だった。
生徒指導主任も務める山田先生は僕たちに知識を与えるだけでなく、紳士淑女として育て上げることに心血を注いでおられる。故にこの授業では居眠りは勿論のこと、余所見やおしゃべりは固く禁止されていた。
「くっくっく!」
「…………」
ただし本日は、その不文律に背く不届き者たちがここにいる。
甘酒さんと僕だ。
いや、僕はこれでも一応ちゃんと授業を受けようとしているよ。でも、甘酒さんが……
「しどろもどろでしたが松本君、どうもありがとう。では次のページを木下さん読んでください」
先生が誰かを指名する度、隣の僕に顔を向けてくる甘酒さん。その表情たるや
ドヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
教科書に載るんじゃないかってぐらい、見事なドヤ顔だった。
「……甘酒さん、ちゃんと前を向いてないと怒られるよ?」
そんな彼女に僕は極めて小さな声で注意を促す。
もちろん前を向き、開いた教科書をしっかり両手でホールドして「ちゃんと授業に集中してますよ?」と先生にアピールするのは忘れない。
「ふっふっふ。それはない、それはあり得ないんだよ、かがみくん!」
なのに甘酒さんときたら小さく含み笑いをすると、あまつさえちっちっちと人差し指をリズミカルに左右へ振って答える余裕すらみせた。
「何故なら私はこの授業で一度も当てられたり、怒られたりしたことはないんだからねっ!」
ドヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!
今一度更なる輝きを放つウルトラドヤ顔。
もしこの様子を山田先生が見ていたら、甘酒さんに指導が入るのは必至だ。
だけど自信満々な甘酒さんの言うように、大胆なこのやりとりを先生に見咎められることはなかった。
そう、彼女が予言してみせたのは「授業で当てられる生徒とその順番」。
とんでもなく地味な予言だ。せっかくなら爆上がりする株の銘柄とか教えてくれたらいいのに……いや、株の買い方も知らなければ、そんなお金もないけれど。
ただ、地味ではあるけれど、彼女の予言はここまで見事に当たっていた。
山田先生は日付と同じ出席番号の生徒とか、何かしらの法則で生徒を指名したりはしない。完全にランダムだ。当然ながら事前に今日は誰を指名すると生徒へ漏らすのも考えられない。
「素晴らしい発音でした。ではこの調子で再び松本君に、今度こそ素晴らしい和訳を期待しましょう」
しかもごく稀に同じ生徒が一日に複数回指名されることがある。
それまでも見事に甘酒さんは当ててしまった。
「どうよ、かがみくん?」
甘酒さんが親指でくいっと松本君を指してくる。
その表情はちょっと癪に障るけど、さすがにこれは彼女の言うことを信じざるを得ないような気になってきた。
タイムループ、そんなものが現実にあるとは……。
「むぅ、松本君に任せていたら授業がこのまま終わりそうですね。仕方ありません、では各務君、松本君を助けてあげてください」
「ええっ!?」
思わぬご指名に堪らず大声をあげた。
僕じゃなくて、甘酒さんが。
「おや、どうしましたか、甘酒さん? 私が指名したのは君じゃなくて各務君ですよ?」
「あ……はい。すみません、ちょっと勘違いを」
「どうも今日の君は授業に集中できてないみたいですね。さっきから余所見ばかりして。私が気が付いていないとでも思ってましたか?」
「……え?」
「何か心配事がありそうですから、お昼休みに私のところへ来なさい。ランチしながら話を聞いてあげましょう」
「ええっ! そんなぁ!」
甘酒さんがさっきよりも大声で嘆いてみせた。
山田先生とのランチ、それは即ち生徒指導に他ならない。決して威圧的に怒られたり、ねちねちとお小言をもらったりはしないそうだけど、代わりに紳士淑女としての振る舞いを、時間みっちり使って指導されるという。
五時間目の授業の時には、ちょっとお淑やかになった甘酒さんを見れるかもしれない。
もっとも今の甘酒さんは頭を抱えて机に突っ伏しながら、起立して淡々と英訳をする僕をジト目で睨んできては「かがみ君のせいだ。これまでいなかったかがみ君のせいで未来が変わって、こんなことになったんだ……」とぶつぶつ呪詛を唱えていた。
なるほど、僕の介入で物事がよい方向に行けばいいけど、こうやって悪い方向に行く場合もあるわけか。
でもさすがにこれは君の自業自得でしょ、甘酒さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます