第4話 ハッキング
夜が来たらしい。でも街は暗くならない。
上空に浮かぶのは雲ではなく、よく見ると小さな無数の照明球。これがこの世界の太陽のようだ。明るく照らし出し、影は硬く濃く落ちている。
「なあ、データ集めってのは何をすんだ?」
太郎丸は路地から路地へ、迷いなく進んでいく。
足元の金属板から、時折、規則的な振動音が伝わってきている。まるで地面そのものが息をしているようだった。
「…ついてこい」
「ついてきてるよ、なんとか」
「…いや待て」
太郎丸は俺の前に手を突き出し、止まるよう促した。物陰から覗いてみると、前方に以前見た奴とは違う型のメガロイドがゆっくりと歩いていた。
顔面が無く、ゴーグルのようなものを装甲の上につけているだけの単純なデザイン。
「…あれは巡回を目的としたメガロイド。あの型番は、比較的旧式で、動きがにぶい」
息を殺す太郎丸は、懐から端末を取り出した。その端末からはクラゲのような気持ちの悪い形のコードが伸び出し、空中に浮いていた。まるで生きているように滑らかに動いていた。
「…だから適している」
端末を俺に手渡すと、突然、太郎丸は走り出した。
向かう先はメガロイド。視界の外に上手く入り込み、脚部に先ほどのコードを差した。
手元の端末にある小型スクリーンから、複雑な数列と幾何学的な模様が流れ込む。
それと同時に、「ガヒン!」という音がメガロイドから聞こえ、プスプスと煙を吹き出した。
「…成功だ」
太郎丸が呟いた。
「……巡回ルート、制御コード、メッセージは──制限がかなりかかっているな」
すると、ピピピ!
電子音がメガロイドから響いた。
それを確認すると、急いで太郎丸はコードを引き抜き、踵を返した。全速力で此方の方へ戻ってくる。
「…これで終了」
「何が?」
「データ集め」
え?
これだけ?
今のでデータを取得できたのか?
「…簡単だろ?」
「見ていた限りは」
「こうしてメガロイドの機体に直接ハッキングして、データを吸い上げる」
いや、でも、こんなことだけでデータを抜き取れたのか?
少し疑問だ。本当にそうなのだろうか。
さすがにメガロイドの情報管理、ガバガバすぎる。
「…だがやはり旧式。アクセスするのは容易だが、重要なデータなど無く、大した収穫はない」
やっぱりそうだよな。
そんな簡単な訳が無い。
「じゃあもっとデータのあるメガロイドを狙えば?」
「…駄目だ。危険すぎる」
「そうなのか?」
「…さっきの奴はノロマだったから良いものの、他はそうはいかん。不審な行動をする人間を見つければ、早急に処分される」
「くぅー、危険なんだな!」
「…なぜ嬉しそうなんだ」
端末を懐にしまった太郎丸はさっさと歩き出した。
「…さあまだまだ続くぞ」
マザー・フロンティアまでの道のりはまだ遠そうだ。
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