第5話 お互いの考え




 太郎丸とともにデータ集めを開始した。

 まずはメガロイドを探すことから始める。

 他のメガロイドに見つからないルートを太郎丸は知っているので、彼についていく。

 目的のメガロイドを見つけると、暗がりを縫うように進み、巡回ルートを慎重に追う。

 

 旧式ゆえに遅いといっても、それでもセンサーの感度は侮れないらしく、太郎丸の指示にしっかり従わなければならない。  


 そして太郎丸はさっきと同じように端末を取り出し、メガロイドの近くに忍び込み、機体情報にアクセスした。

 

 そのプロセスを何度も繰り返す。いくつものメガロイドの目を盗み、ハッキングし、情報を手に入れた。だが、どれも収穫は乏しい。


 巡回ルートのスケジュールや整備記録などしか見つけられず、目新しいデータはない。


 それでも太郎丸は顔色一つ変えず、規則正しく情報取得に勤しむ。そこに金銀財宝が埋まってなくても、鉱脈を信じ、掘り進めるしかないのだろう。


 「…啓太郎」


 突然名を呼ばれる。


 「…休むか」


 足を止めた太郎丸が、俺の方に向き直った。


 「…ここならメガロイドも来ない。少し息を整えよう」

 「あ、ああ」


 太郎丸は近くのパイプに腰を下ろしたので、俺も同じくそうした。


 金属の壁に背を預けると、ひんやりとした冷たい冷気が背骨を伝った。

 遠くから人の喧騒とは程遠い無機質な機械音が響いており、それが社会の音を生み出していた。


 俺は小さく息を吐き、横に座る太郎丸を見た。


 彼は腕を組み、目をつぶって、銅像のように動かなかった。身体にしっかりと休息を与えているようだった。


 こいつも疲れていたんだな。


 まあ当然か。

 死と隣合わせの中、メガロイドに近付いて、逃げてを毎日繰り返しているんだ。疲れて当然だ。正直言うと、俺もかなり疲れていた。


 昨日からずっと走り通しだったし、食べ物も満足いくほど食べられなかった。体力が足りない。腹に蓄えがない。


 あー、目一杯の休養と食いぶちが必要だー。



 「…もう少し休むか?」


 

 俺の頭の中を読んでいるかのように、太郎丸がタイミング良く語りかけた。


 「い、いや、もういいよ…。早く次の奴を探して、情報を集めねーと」

 「…そうか。啓太郎は熱心に手伝ってくれるな、俺たちの事情なのに」

 「当たり前だろ。早くマザー・フロンティアに行かねぇとな」

 「…疑問だ。何故そこまでしてくれる? この世界は別に啓太郎と関わりはない。元の世界に帰りたいとは、思わないのか?」

 「思わない!」

 「…言い切るのか」


 太郎丸が呆れた顔を向ける。


 「俺はこの時を待っていたんだよ。世界を変えるほどの非日常、大いなる使命、このヒリヒリ感。どれも俺の求めていたものだ。俺の世界では味わえなかったものだ!」

 

 太郎丸には失礼なのかもしれないけど。


 「俺はいま、ワクワクしている」


 思わず拳をグッと握り締めていた。


 「…そうか。俺は啓太郎の日常の方が羨ましいよ」

 「はっ! なんでもねぇ日常だぞ。毎日同じことの繰り返し、事件は起こらねぇし、世界を救うこともできないんだぞ」

 「…起こらない方がいい。大それた使命なんて、ただただ重いだけで身に余る…。希望だと持て囃され、危険を強いられ、ずっと走り続けることがどれほど大変か。どれだけ苦痛か! 実を言うと……世界を救うなんてどうでもいい……興味がない」


 太郎丸の声がどんどん翳りを見せる。


 「…俺はもう、疲れたんだ」


 太郎丸は両手を組み、額に押し当てて沈んだ。



 たぶんこれは本音だ。心の底から吐き出した太郎丸の言葉だ。


 でもやはり、それを聞いてもなお、俺は彼に共感を覚えなかった。


 世界を救うってのは大変なものだ。精神がすり減るに決まっている。期待を背負うのも当然だ。


 ──だからこそ羨ましい。

 その非日常が、その緊張感こそが欲していたものだ。俺がずっと味わってみたかった世界の物語なんだ。


 「太郎丸、なら俺に任せな」

 「…なに?」

 

 顔を上げた太郎丸は、前に立つ俺を不思議そうに眺めた。



 「今度は、俺がメガロイドにハッキングして、情報集めの一助となるぜ」



 こんな危険、向こうでは味わえねぇ。

 


 

 

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