第4話
壁に寄りかかると壁伝いに冷気が身体に伝わって凍えることが分かったので、壁には寄りかからず、地下牢の中央で静かに処罰が下される時を待っていた。
陸議は以前も軍に身を置いていた。軍規に照らされた刑罰の基準は大体分かっている。
ここは事実上涼州遠征の最前線になるし、命令違反や背信行為は通常よりも厳しく行われるのが普通だ。
しかし心を決めて行動した以上、一番最悪の処罰を与えられたとしても、武官として狼狽しない自分でありたいと思っている。
何かを考えていたわけでもないし、
眠っていたわけでもなかった。
何となく呉で、
どのくらい時間が経ったのか、
扉が開く音がして、複数の足音が聞こえて来た。
陸議は落ち着いた表情でゆっくりと瞳を開いて、そこに
徐庶が小さく笑んでいる。
「今、
山中で迷って、やっと帰って来たって。
見張りの兵が牢を開けてくれる。
「司馬懿殿と賈詡殿が、君は部屋に戻っていいと仰ってたよ」
徐庶が立ち竦んだままだった陸議の手を取る。
冷え切って、冷たかった。
「氷みたいだ。俺のせいでこんなところに入ることになってごめん。
牢の剥き出しの土の上に、一つ、落ちた。
心は決まってたはずなのに。
ずっと、あの庵で黄巌と会って話していた時から、
蜀に行きたいと自分に願ってくれないかなと思っていた。
…………
陸議は徐庶には祈っていたのだ。
いつか自分を信じて、蜀に行きたいと言ってくれないかと。
(私の願いも、貴方の願いも折角、叶ったのに)
助けに来てくれなど、少しも思っていなかった。それだけは確かだ。
だからこれは悔し涙かもしれない。
願いは結局、叶わなかったから。
でも、もう二度と触れ合うことはないんだろうなと、そんな予感がしていた徐庶の手に触れた時、ひどく温かさを感じて、何か、二度と会えない運命だった人に思いがけず会えたような気もしたのだ。
だから、安堵の涙なのかもしれない。
よくは分からなかった。
もう一筋、陸議の頬に伝った涙を、徐庶の親指が掬う。
「…………どうして戻って来たんですか……」
徐庶の胸に顔を伏せると、何の後悔もしてなかったはずなのに涙が込み上げて来る。
徐庶が両腕で包み込んでくれる。
「どうしてもそうしたいと、思ったんだ」
【終】
花天月地【第94話 絲】 七海ポルカ @reeeeeen13
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