39話 再会の街角
昼食を終えると、ラングたち一行は早速ドグマの義妹夫婦のもとを訪れた。
サリーネは、再会を果たしたその日のうちに訪ねてくるとは思っていなかったようだが、すぐに笑顔を見せてくれた。
「折よく主人もおりますので、ぜひ顔を見せてあげてください」
サリーネはそう告げると家の扉を開け、皆を招き入れた。
室内にはほのかな明かりが灯っているものの、やや薄暗い。
静まり返った空間に、何かを叩く甲高い音が響いていた。
「イスマさん、さっき話したお義兄さんが来てくださったわよ」
家の一角にある小さな工房へ案内され、ドグマが扉から顔を出す。
「急で悪いな。
居ても立っても居られなくなっちまってよ。
迷惑とは思ったが、来てしまった」
「あ、兄貴! 本当に兄貴なんだな……。
よくぞ無事でいてくれた。
あの時俺、何もできなくてよ……ずっと気になってたんだ」
「イスマ……。
心配かけてしまったみたいだな。
元気にしてくれていたようで、良かったよ」
「兄貴……」
イスマは声を詰まらせ、肩を震わせる。
血は繋がらずとも、本当の兄のように慕っていたドグマが転落していく姿を、
ただ見ていることしかできなかった――かつての自分を思い出したのだ。
労働奴隷に身をやつし、すべての関係を断ち切り去っていった背中。
それを誰よりも嘆き悲しんでいたのが、彼だった。
職人のいろはを教えてくれたのはドグマだ。
厳しくも愛情をもって技を叩き込んでくれたからこそ、今の自分がある。
その恩を、彼は一日たりとも忘れたことはない。
今はこの街に流れ着き、製造よりも魔道具の修理に比重を置いている。
だが、その腕前はいささかも衰えてはいなかった。
「イスマよ。この町の窮状を知り、お前たち家族が苦しんでいると聞いた。
私に――いや、我々に力にならせてくれないか」
「何言ってんだ兄貴。
兄貴だって奴隷から解放されたとはいえ、まだまだ大変なんだろ?」
「いや、良縁に恵まれてな。
今はそれなりに充実した毎日を過ごしている。
――ここにいるのは、私の仲間だ。
本当に頼りになる連中でな。
きっと、お前たちの力になれるはずだ」
「気持ちはありがてぇ。
だがよ、この街の状況は個人でどうこうできるレベルじゃねぇんだ。
領主様にまで匙を投げられちまってるんだからよ。
……この街も、もう終わりだ。
だから俺は、家族を連れてどこかよその土地へ移ろうかと……考えてたところなんだ」
「ならば、しばらく待ってくれ。
――これはラングという、私の恩人でな。
とんでもない奇跡を起こす奴なんだ。
信じられないかもしれないが、ほんの少しでいい。時間をくれないか」
「そりゃ、少しくらいならもちろん構わないが……」
「なら、どこか部屋を使わせてくれ。
狭くてもいい。散らかっていても構わない」
「それなら、上の子が使っていた部屋がありますが……。
出ていった時のままで、とても見せられたものじゃ……」
「それで十分だ、サリーネ。その部屋を私たちに使わせてくれ」
やり取りを終えると、イスマとサリーネに続いて家の中を移動する。
どうせ説明しても伝わらない。
ならば――転移魔方陣を設置し、実際に見せた方が早い。
ドグマは部屋に入るや否や、道具袋から転移魔方陣の描かれた石板を取り出した。
「それじゃ、ついてきてくれ。
今から港町ポルテアに案内する」
「あ、兄貴、何を言ってるんだ?
ポルテアなんて遠い所に、どうやって行くってんだ?」
「論より証拠だ。この石板に乗れば、すべてわかる」
「イスマさん、深く考えないで俺たちの真似をしてくれれば♪
さぁイスマさん、サリーネさん、ごあんな~い!」
「僕たちの街、賑やかな街を目指して」
「出発ですわ!」
ドグマ、ラング、ジョナサン、ナターシャ――
軽やかな声とともに、四人の姿が目の前でかき消えた。
「おい、どうなってんだ?
何が起こったんだ……」
「イスマさん、考えても無駄みたいよ。
ほら、その石板を踏みしめて!
――えい!」
「のわ~っ」
いたずらっぽ笑みを浮かべ、サリーネがイスマの背中を押した。
思わず上げたイスマの声も、次の瞬間には途切れた。
「じゃあ、私も……えい!」
サリーネはそのままためらいもせず石板を踏み込む。
こうして部屋からは、誰の姿も消え失せた。
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