第19話「広がる噂」

翌週の朝、教室に入ると、空気が少しざわついていた。


「なあ、天城。お前、妹とマジで付き合ってんの?」


 突然クラスメイトに言われ、思わず固まる。


「は? 何言ってんだよ」


「昨日駅前で手つないでるとこ見たってやつがいてさー」


 心臓が跳ねる。

 周りからクスクス笑い声が上がった。


「やっぱりお似合いだよなー、兄妹だけど」


「ち、違うって!」


 必死で否定するが、顔が熱いのを隠せない。

 ふと見ると、葵が教室の入り口で立ち尽くしていた。


「……ごめんなさい、先に行ってます」


 そう言って踵を返す葵。

 慌てて追いかけたが、校舎裏で立ち止まった葵は泣きそうな顔をしていた。


「ごめんなさい……全部私のせいですよね」


「違う! 悪いのは噂してるやつらだ」


 思わず強く言うと、葵がはっと顔を上げる。


「……お兄ちゃん」


「大丈夫。俺が全部守るから」


 そう言った瞬間、葵が小さく頷いた。


 だが、教室に戻る途中、廊下の向こうで佐伯と目が合った。

 彼は何も言わず、意味深な笑みを浮かべて去っていった。


(……お前か、噂流したの)


 胸の奥がじわりと熱くなる。

 次に会ったときは、黙っていられないかもしれなかった。

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