第18話「母親の視線」

夕食のあと、母さんが急に言った。


「ねえ、二人って最近ほんと仲良しよね」


 箸を持つ手が止まる。

 葵も一瞬固まって、ぎこちなく笑った。


「そ、そうですか?」


「ええ。なんだか兄妹っていうより、カップルみたい」


 その言葉に、葵が真っ赤になる。

 俺も咳払いをしてごまかした。


「別に……普通だろ」


「ふふ、まあ仲がいいのはいいことだけどね」


 母さんはそれ以上追及せず、笑いながら食器を片付けた。


 食後、二階に戻ると葵が小声で言った。


「……やっぱりバレてますよね」


「かもな……でも、母さんならまだ大丈夫だろ」


「お父さんに知られたらどうなるんでしょう」


 その言葉に、背筋が冷たくなる。

 父さんは真面目で厳しい。もし知られたら——。


「とにかく、今は気をつけよう」


「……はい」


 葵が少し不安そうにうなずく。

 その横顔を見て、守らなきゃと強く思った。


(絶対に、誰にも邪魔させない)

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