第17話「はじめてのデート」

土曜日。

 朝からソワソワしていた俺は、玄関で待つ葵と目が合った。


「……ほんとに行くんですか? デート」


「だって、お兄ちゃんが誘ったんですよ?」


 少し照れくさそうに笑う葵。

 私服姿の彼女は、学校よりも大人っぽく見えた。


 電車に乗って街へ出る。

 映画を観て、ショッピングモールを歩いて、カフェで並んで座る。


「なんか、普通の恋人みたいですね」


「いや、俺たち恋人だろ」


 葵が顔を赤くして、カップを両手で包む。


「……嬉しいです。こうやって一緒にいられるの」


 その言葉に胸が熱くなる。

 気づけば、テーブルの下でそっと手を握っていた。


 帰り道、夕焼けに染まる駅のホームで葵が言った。


「……お兄ちゃん、好きです」


 電車の音にかき消されそうな声だったけど、ちゃんと聞こえた。


「俺も」


 その瞬間、周りの人の目なんてどうでもよくなった。

 二人だけの世界で、そっと唇を重ねた。


 家に帰ると、玄関に母さんの靴があった。

 ドアを開けた瞬間、母さんがにこやかに迎えてくる。


「二人とも、いいデートだった?」


「っ……!」


 葵と顔を見合わせて、同時に真っ赤になる。


(やばい、気づかれてる……!?)

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