第15話「秘密の恋人たち」

それから数日。

 俺と葵は“兄妹”でありながら“恋人”になった。

 ただし、誰にも言えない秘密だ。


 学校では今まで通り。

 けれど机の下で指先がそっと触れるたびに、心臓が跳ねる。

 昼休みに目が合っただけで、二人して慌ててそらす。


(こんなの、絶対バレる……)


 放課後、一緒に帰る道すがら、葵が小声で言った。


「ねえ……手、つないでいいですか?」


「今ここで? 誰かに見られたら——」


「大丈夫です。人通り少ないですから」


 少し躊躇してから、俺は手を差し出した。

 葵の小さな手が重なる。

 その温もりに、胸がいっぱいになる。


「……お兄ちゃん、恋人って、いいですね」


「……ああ」


 家に帰れば、両親がいる。

 だから、玄関を開ける前に慌てて手を離した。


「ただいまー」


「おかえり」


 母さんが笑顔で出迎える。

 ふと横を見ると、父さんがじっと俺たちを見ていた。


(……気づかれた?)


 その一瞬の緊張に、背中が冷たくなる。

 けれど父さんは何も言わずに新聞に目を戻した。


 葵と視線を交わす。

 誰にも言えない秘密を共有するだけで、胸が甘く、苦しかった。

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