第13話「抑えきれない気持ち」

その夜。

 葵が風呂から上がると、リビングにまだ俺がいた。


「……お兄ちゃん、まだ起きてたんですか?」


「……話がある」


 自分でも驚くほど低い声が出た。

 葵がソファに座ると、俺は深呼吸して言葉を絞り出した。


「今日、佐伯と楽しそうに話してたろ」


「え?」


「……見てて、イライラした。嫌だった」


 沈黙。

 言った瞬間、心臓がバクバクと音を立てる。


「……どうして?」


「分かんねえ。でも……お前が他の男と笑ってるの、嫌なんだよ」


 葵が目を見開いたまま、しばらく何も言わなかった。

 やがて、そっと唇をかむ。


「……ごめんなさい。でも、私も同じです」


「え?」


「お兄ちゃんが他の女の子と楽しそうにしてると、胸が苦しくなるんです」


 静まり返るリビングに、二人の鼓動だけが響く。


「……じゃあ、俺たち——」


 言いかけたとき、廊下から母さんの足音が聞こえた。


「二人とも、まだ起きてるの?」


 あわてて話を切り上げ、葵は小さく笑った。


「続きは……また明日ですね」


 そう言って部屋に戻る葵の背中を見送り、ソファに座り込む。


(……やっぱり、俺はもう兄としてだけじゃ見られない)


 胸の奥で、どうしようもないほど強い想いが渦巻いていた。

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