第12話「妹、やっぱりお兄ちゃんがいい」

駅前のカフェに着くと、佐伯くんと数人のクラスメイトがすでに集まっていた。

 楽しそうに笑う声に混じって座り、ドリンクを頼む。


「葵ちゃん、文化祭手伝ってくれて助かったよ!」


「いえ、私も楽しかったです」


 笑顔で答えながらも、心のどこかが落ち着かない。

 頭の片隅には、帰り道で見たお兄ちゃんの顔が浮かんでいた。


(……昨日も今日も、あんなに優しかったのに)


 ふと佐伯くんが言った。


「葵ちゃんってさ、天城と仲良いよな。兄妹っていうか、カップルみたい」


 どきり、と心臓が跳ねる。

 周りが笑う中、うまく否定できない自分がいた。


(……やっぱり、私、兄としてじゃなくて——)


 胸がじんわりと熱くなる。


 帰り道、夜風が冷たい。

 家の前まで来ると、玄関の灯りがついていた。


 ドアを開けると、リビングでお兄ちゃんが一人、スマホを見ていた。

 私に気づくと、少しホッとしたように息を吐く。


「……遅かったな」


「ごめんなさい、ちょっと長引いちゃって」


 視線が合う。

 言葉にしなくても、何かが伝わった気がした。


(やっぱり——お兄ちゃんがいい)


 その確信が、心の奥で強く光った。

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